4.マジック・リスニングの販売元に聞く
マジック・リスニングの効果検証実験でも書きましたように、マジック・リスニング使用後は確かに英語の音が前よりはっきり聞こえるようになった気がします。また、私が行った実験では、同じTOEICの問題を解いた場合、マジック・リスニングを...
「使用していた」私は「誤答が42%も減った」のに対し、 「使用していない」YT氏は「9%しか誤答が減らなかった」、
ということが判りました(詳細はマジック・リスニングの効果検証実験)。
ただ、私は、一部の英語学習者のように「目から鱗が落ちた!」というほどの効果を感じなかった、というのが正直な感想です。
このあたりを、製品開発もとの(株)アリスコーポレーションに聞いてみると、
「すでに備わっているリスニング到達度が高ければ高い方ほど、初学者の方に期待できるような「飛躍的」な伸びは感じにくいと思います。(マジック・リスニングのトレーニング効果を)いわゆる『劇的な変化』とご報告頂く方には、TOEICの点数でいえば、比較的中間層(450〜850)くらいに位置する人が多いようです」
との答えを頂きました。
もともと、マジック・リスニングは「リズム」と「周波数」という2つの違いを矯正することで、日本語を聞き取ることに特化した日本人の聴覚を、英語に対応できるようにすることが目的でした(第1回 マジック・リスニング体験記を参照)。
TOEICで900点をとるくらいの上級者は、かなり英語は聞き取れているはずですから、トレーニングを行っても、中級者ほどの劇的な効果は体感できないのでしょう。
逆に、TOEICで得点が300点くらいの人は、仮に英語が聞き取りやすくなったとしても、単語力や文法力がありませんから、聞いた音の意味は判らず、TOEICで点数が上がる事もないでしょう。
一方でTOEICで中間に属する層は、単語力も文法力もそれなりのものがありながら、発話を文字に置き換えることが出来ず、リスニングが半分を占めるTOEICで得点が伸び悩んでいることが多いようです。
マジック・リスニングで「劇的な効果があった」という報告をする人の多くが、TOEIC中間層に属する人であるというのは、ここに原因があるのでしょう。
また、聴覚の発達は年齢と大きな関係がありますから、年齢によってマジック・リスニングの効果に差が出るのか、というのも興味深いところです。この年齢とマジック・リスニングの効果の関係についてアリスコーポレーションにたずねてみると……
「対象年齢である10歳以上の人であれば、特に年齢によって効果に差は出ることはない」、とのことでした。
人間は40〜50代を過ぎると、ほとんどの人で老人性難聴が始まると言いますが、40〜50代以降の方にも同じように効果があるそうです。
老人性難聴では、一般に高周波の音から聞き取りにくくなる、と言われていますが、マジック・リスニングを使用したトレーニングでは、その高周波の音を集中的に浴びることになります。ですから、老人性難聴が原因で硬直化した聴覚の解消にも役立ち、マジック・リスニングは中高年の方にも効果があるとのことでした。
(ちなみに、10歳未満の人が使用してはいけないのは、「聴覚が未成熟なため過剰に反応し、悪影響を与える可能性があるから」だそうです)。
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また、アリスコーポレーションから、
「「リズム」と「周波数」の壁を越えることについては、いわゆる『英語のシャワーを浴びる』ことによって克服することが可能であり、また王道でもあると思いますが、膨大な時間がかかります。マジック・リスニングは、それを短時間で効率よく行おうというものなのです」
というコメントを頂きました。
私は1年間アメリカに留学していましたので、その際に「英語のシャワー」を浴び、ある程度英語の「リズム」と「周波数」に対応できる聴覚が養われた、ということは十分考えられる話です。
これが、私がそれこそ「目から鱗が落ちた!」と言えるほどの効果を感じられなかった原因かもしれません。
なぜ有名なクラシック曲なのか?
次に私が感じた疑問は、マジック・リスニングのトレーニング用CDで流れてくるクラシック曲は、なぜエルガーやガーシュインのメジャーな曲ばかりなのか、ということでした。
周波数の関係でこのような選曲になったのかもしれませんが、「慣れない音を聞かせて耳を揺さぶる」という観点から考えると、ほとんどの人がはじめて耳にするであろう選曲にした方が効果的ではないか、と感じてしまいます。
この件に関してアリスコーポレーションに問い合わせると、
「選曲は、訓練の効果を高めるために、
A)リラックスしてユーザーが聞くことができ、興味をもって訓練できそうな楽曲 B)「慣れない音を聞かせて耳を揺さぶる」ことができるように、比較的マイナーな楽曲 がそれぞれ半々になるように選択した」
とのことでした。つまり、単に「耳を揺さぶる」だけではなく、ユーザーをリラックスさせるために、故意にメジャーな曲も収録した、ということのようです。
次に、「英会話教材としてのマジック・リスニング」に触れます……。
CD中の英会話について
第1回マジック・リスニング体験記でも述べたように、マジック・リスニングは英会話教材として開発された訳ではありません。NHKのラジオ講座や普通のCD付雑誌のように、ダイアログを聞いて役立つ語彙や表現を覚えるということよりも、英語の「周波数」・「リズム」を受け入れられる聴覚を養成する、ということに重きが置かれています。
ですから、トレーニング用CDを聞くときも、流れてくる英会話よりも処理音のほうに意識を傾けろ、と言っているくらいです。
しかし、CDに収録されているダイアログは、普通の英会話教材として聞いてもなかなか質の高いものでした。マジック・リスニングが家にやって来たのところでも書かせていただきましたが、マジック・リスニングのCDに収録されている英会話は、「ホテルにて」・「買い物」・「病気になったら」など旅行に関するものが大部分です。
基本的に男性一人と女性一人との対話なのですが、
"You're all set." (結構です。出入国検査や、ホテルの支払いなど、手続きが終わったときに使う) "Do you
take this credit card?" (このクレジット・カードは使えますか?) "I want you to be my
guest today." (今日は、僕がおごるよ) "Your bill comes to $270." (全部で270ドルになります) "It's $125 including
tax." (税込みで125ドルになります) "Why don't we split the bill?" (割り勘にしない?)
など、実際の旅行で役立つであろう表現が随所にちりばめられています。これらは、私もアメリカ留学中に何度も耳にしたものですが、教科書で習う類の表現ではないため、文法的には簡単でありながら、なかなか実践では使いこなせないものです。
これらの表現を体得できるのは、マジック・リスニングの本質ではありませんが、うれしい「おまけ」のようなものだと思います。
(ただ、"Buying a
T-Shirt(Tシャツを買う)"というタイトルの英会話に出てくるTシャツ売りのお兄さんは、かなりわざとらしいです……。余談ですが)
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また、製品には英語の本文・日本語訳・日本語解説を載せた「英会話ハンドブック」が付属していますが、その内容もなかなか充実しています。私が注目したいのは、この教材の製作をしているのが単なるネイティブではなく、日本語と英語のバイリンガル講師であるということです。
日本では「英語を習うならネイティブから!」という風潮があり、ネイティブであれば英語を教えるのが上手いだろう、と過信している人が多いようです。しかし、「英語のできないアメリカ人」でも書いたように、「教養あるネイティブ」の中にさえ、「複数形」と「所有形」の区別がつかなかったり、"be
going
to"と"will"の違いを知らなかったり、"cemetery(共同墓地)"という単語のスペルを知らなかったりする人がいるのが事実です。
また、"Seeing
is
believing(百聞は一見にしかず)"ということわざを、「聞いたことがない」と言うような人が、大手英会話スクールで「先生」として大手を振るっているのが現実です。
一方で、マジック・リスニングの「英会話ハンドブック」は日本語と英語に精通したバイリンガル講師によって作られていますので、
・日本語では『ミルクティー』・『レモン・ティー』などという言葉があるが、英語では"milk tea"・"lemon
tea"などと言っても通じず、"tea with milk"・"tea with lemon"と言わなくてはならない。
・日本語のファースト・フード店では、「チーズバーガ・セット」のように「セット」という言葉を使うが、英語では"〜
combo"のように"combo"という単語を使うことが多い。
などが「ワン・ポイント・レッスン」として指摘されており、日本人学習者のつまずきやすい点をあらかじめ教えてくれます。
トラベル英会話の他にも、「音楽番組」・「ニュース」・「天気予報」や、「留守番電話」など多様なセグメントもあり、純粋な英会話教材としてもなかなか充実しています。
マジック・リスニングの本質が英会話教材ではないことは既に述べた通りですが、英会話部分のみを抜き出した英会話CDと解説本も付属しているので(マジック・リスニングが家にやって来た参照)、これらを活用しない手はありません。本質以外の点でも妥協せず、質の高い教材に仕上げている点に好感が持てます。
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と、色々書いて来ましたが、そろそろまとめに入りたいと思います。ほとんどの英会話教材が「旅行」や「商談」などのシチュエーションに応じた定番表現を教えることに終始しているのに対して、「周波数」と「リズム」という日本語と英語の言語学的な違いに焦点を絞ったこのマジック・リスニングという商品は異彩を放っているように感じます。
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