「英語を学ぶすべての人へ」 > 語源で覚える英単語 |
||||||||
語源学習の注意点 |
||||||||
語源学習を行う際には、以下の点に注意しましょう。1. 他の語彙学習テクニックと平行して用いる語源で英単語を学習する方法は非常に効果的なテクニックですが、もちろん欠点もあります。例えば、英単語を「覚える」ということは、単語と和訳を単純に結びつけることではありません。「英語語彙習得論」、「ことばと文化」という書籍の中に、そうした好例が紹介されています。例えば、"drink"という単語は、我々は普通、「飲む」という意味だと覚えています。それでは、以下の4つのうち、drinkを使用することができるのは、いくつあるでしょうか? @ 水を飲む A (スプーンで)スープを飲む B (あやまって)指輪を飲む C (錠剤の)薬を飲む 正解は、@だけです。「水を飲む」は"drink water"で間違いありませんが、A〜Cの例では、いずれも"drink"という動詞を使うことは出来ません。Aは"drink soup"ではなく、"eat soup"(カップで飲むスープであれば、"drink soup"も可能)、 Bは"drink a ring"ではなく、"swallow a ring"、Cは"drink medicine"ではなく、"take medicine"が正解です(錠剤ではなく水薬であれば、"drink medicine"も可能)。 "Drink"のように、皆さんが今までに幾度となく遭遇したであろう単語でさえ、正確に使いこなすのは難しいということが判ったのではないでしょうか? つまり、「和訳を覚えた」ということと、その単語のニュアンスや使用範疇を正確に理解できたということの間には、大きな隔たりがあるのです。 また、意味的には似た単語であっても、使用する際には異なる文法的制約を受ける英単語も多くあります。例えば、adviseという単語は、「〜することを勧める」という意味で、「〜することを提案する」という意味のsuggestと、非常に似た意味を持っています。しかしながら、これら2つの単語は、必ずしも同義語という訳ではありません。例えば、「私は彼女にもっと注意深くしたほうがいいと勧めた」と言いたい際には、 I advised her to be more careful. と言うことはできますが、 * I suggested her to be more careful. と言うことはできません。Suggestは、後にthat節か動名詞しか取ることができないため、 I suggested her being more careful. または、 I suggested that she [should] be more careful.(アメリカ英語では、shouldは省略可能) のいずれかを使わなくてはいけません。Adviseやsuggestのように、意味的には似た単語であっても、使用する際には異なる文法的制約を受ける英単語も多くあります。和訳を覚えるだけでは、英単語を必ずしも正しく使いこなせるようにはならないということが、以上の例でもお判りいただけたことでしょう。 語源学習は、馴染みのない英単語の和訳を覚える上では、非常に有効な方法です。しかしながら、"drink"や"advise"の例からお判りいただけるように、英単語を和訳と結びつけることができたらかといって、その単語を「マスターした」と必ずしも言えるわけではありません。 英単語のニュアンスや正しい用法など、単語をより深く理解するためには、その単語が実際にどのような状況で使用されているのか、使用例に数多く触れることが重要です。単語集では意味がピンとつかめなかった言葉でも、自分が読書や英会話をしている際に出会ったり、意識的に使ってみたりすることで、生き生きとした臨場感を持って体感することができるでしょう。 語源学習は、単語の意味を学習する上では大変効果的ではありますが、語源学習だけでは学びきれない単語の側面は数多くあります。語源学習の限界を認識した上で、読書や英会話など、語源以外の学習活動を積極的に組み合わせてみるとよいでしょう。 2. 意味が100%推測できるとは限らない語源学習の第2の限界は、語源に正しく分解できたからといって、意味が必ずしも正しく推測できるとは限らないということです。その理由の1つには、接辞や語根の中には、複数の意味を持っているものがあるということが挙げられます。 例えば、「試験にでる英単語」によると、"de"という接頭語には、「下へ」、「分離」、「強意」、「悪意」、「否定」という5つの意味があります。先程、dependという動詞は、 「de下に」「pendつるす」⇒「〜にぶら下がっている状態」⇒「頼る」 という式をイメージをすると、意味を覚えやすくなると書きました。しかし、dependは、「下につるす」以外にも、 1. 「de分離」「pendつるす」⇒「〜から離れてつるす」、 2. 「de強意」「pendつるす」⇒「強くつるす」、 3. 「de悪意」「pendつるす」⇒「悪意をこめてつるす」、 4. 「de否定」「pendつるす」⇒「つるさない」 という4つに解釈できる可能性があります。 多義性のある接辞・語根が含まれている場合は、dependやdescendのdeは「下に」、departureのdeは「分離」、decentralizeやdecodeのdeは「否定」……という具合に、その語源がどういう意味で用いられているのか、単語ごとに個別に記憶しておく必要があります。 また、語源的な意味を正しく理解できたとしても、英単語の正しい意味に辿り着けるとは限りません。例えば、「語源で単語を覚えるとは?」の項でご紹介した、suspendとdependがこの例にあたります。先程、 suspend = 「sus下に」 + 「pendつるす」=「つるす、かける」 depend=「de下に」「pendつるす」⇒「〜にぶら下がっている状態」⇒「頼る」 という式をご紹介しました。 上の式からお判りいただけるように、suspendもdependも、接辞と語根に分析してみると、「下に(sus /de)」「つるす(pend)」という意味になります。それにもかかわらず、最終的にはsuspendは「つるす、かける」、dependは「頼る」という意味になってしまいます。Suspendとdependの例から、正しい語源的意味が理解できたとしても、必ずしも英単語の現代的な意味が推測できるとは限らないということがお判りいただけるでしょう。 英単語の中には、現代的な意味が、本来の意味から大きくかけ離れてしまっているものも幾つかあります。 例えば、ambitiousという単語を、皆さんはご存知でしょうか? "Boys, be ambitious!"といえば、「少年よ、大志を抱け」という意味になりますから、"ambitious"というのは、「大望のある」、「野心のある」という意味です。 Ambitiousの語源を考えてみると、 ambitious = ambi「周りを」+it「行く」+ous「→形容詞」 と分解することができます。Ambience(環境)、ambient(周りの、包囲した)、ambit(範囲)などは、いずれも「周り」に関連する言葉であり、exit(出口)、transit(通路、通過する)、itinerary(旅程)は、いずれも「行く」に関係があります。 Ambitiousは「周りを」「行く」ことに関係する「形容詞」であることが判りましたが、この単語はなぜ「大望のある」、「野心のある」という意味になるのでしょうか? これに関しては、少し想像力を膨らませなくてはなりません。 正解を言うと、古代ローマでは、投票によって政府の役職につく人を決めていました。そこで、官職に就くことを希望する者は、色々なところを歩き回り、票集めをすることが必要でした。このようなローマの習慣から、ambitiousという言葉が生まれたといわれています。 Ambitiousのように、語源から意味を一筋縄に推測することができない単語も幾つかありますので、注意が必要です。 ただ、語源的意味と現代的意味の隔たりにより、意味の推測が困難になっている単語があることも確かですが、ambitiousの例からも判るように、その単語が背負っている歴史的背景を垣間見ることができ、雑学として面白い発見ができることもあります。そういった寄り道は、丸暗記だけの単語学習では味わえるものではありません。語源的意味と英単語としての現代的意味のギャップは、確かに少し厄介ではありますが、そのギャップをむしろ楽しむくらいの気概で望んでみてはいかがでしょうか? 語源的意味と現代的意味に隔たりがある英単語に対処できないということは、語源学習の欠点のひとつではありますが、考えようによっては、楽しみの一つにもなりえるものです。 3. 語源で覚えられない難解語彙も多数ある。それらをきちんと見極めること。英単語の語源を分析することは、未知語の意味を推測したり、意味を学習したりする上において、非常に有効な手がかりとなることがあります。そして、一般的に、抽象的、学術的、知的で難度の高い英単語にほど、有効なテクニックです。しかしながら、難解な語彙の中にも、語源に分析できないものや、分析したところで、意味を推測・学習するのにそれほど寄与しない英単語があることもまた事実です。 語源学習に頼りきっていると、語源のテクニックが使えない単語を無意識のうちに学習対象からシャット・アウトしてしまう危険性があります。つまり、接辞・語根に分解できない単語に無関心になり、「語源で勉強できない単語は、勉強してもどうせ覚えられないから、無視してしまえ」と思ってしまうことがあるのです。 先程、大雑把に言って、英単語の約3分の2は語源により意味を推測できる可能性があるといいましたが、裏を返せば、3つに1つの単語は語源学習がほとんど意味をなさないということです。語源学習が使えない単語の中にも、重要な語彙は数多くあります。語源学習にのめりこみすぎて、英単語に対する視野が狭くなってしまわないように、注意をしましょう。 次のページへ>>
|
||||||||
<<前のページへ | 目次 / 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 | 次のページへ>> | ||||||
「英語を学ぶすべての人へ」 > 語源で覚える英単語 |