【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

私が執筆した以下の論文が、TESOL Quarterly (Wiley-Blackwell)に掲載されました。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(研究の背景)

中学校や高校の英語授業で、単語に関する小テストは一般的に行われていることと思います。私も中学生や高校生の頃に英語の授業で単語帳が配布され、毎回決められた範囲に関する小テストが行われていたことを覚えています。

「テスト自体に学習効果がある」という研究結果を考慮すると、単語テストの学習効果をいかにして高めることが出来るかは、重要な研究課題であると考えられます。

* なお、テスト自体に学習効果があるというのは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テスト効果に関しては、以下の記事をご覧ください。

【研究結果】本当に何かを習得したいなら、学習ではなく〇〇が効果的

先日出版された私たちの研究では、英語語彙学習における非累積テスト(non-cumulative test)と累積テスト(cumulative test)の効果を比較しました。

ここで言う「非累積テスト」とは、それぞれの出題範囲に重なりがないテストを指します。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半で学習した内容が出題される時、中間テストと期末テストの出題範囲には重複がありません。よって、これらのテストは非累積テストです。

一方、「累積テスト」では、その名の通り出題範囲が累積的に増えていきます。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半だけでなく前半でも学習した内容が出題される時、このテストは累積テストと呼ばれます。

数学や心理学の分野においては、累積テストの方が非累積テストよりも学習を促進することが示されています (Beagley & Capaldi, 2016; Khanna, Brack, & Finken, 2013; Lawrence, 2013; Mayfield & Chase, 2002)。しかしながら、外国語学習においても累積テストが記憶保持を促進するかどうかは、これまでの研究では明らかになっていません。

(研究の概要と結果)

上で述べたような背景をふまえ、我々の研究では英語語彙学習における累積テストと非累積テストの効果を比較しました。

参加者は薬学を専攻している日本の大学生72名でした。参加者は非累積グループと累積グループとに割り当てられました。いずれのグループでも、参加者は8週間にわたって80の医学用語を学習しました。授業は1週間に1回行われ、毎週10の英単語が導入されました。翌週の授業では、学習した単語に関する小テストが行われました。

非累積グループでは、前の週で導入された10単語が次週の小テストで出題されました。一方、累積グループでは、前の週で導入された単語だけでなく、それ以前の授業で導入された単語も出題範囲として指定されていました。

以下に非累積グループと累積グループのイメージを示します。

図1. 非累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語11~20」、小テスト3では「単語21~30」が出題範囲。それぞれの出題範囲に重なりがない。
図2. 累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語1~20」、小テスト3では「単語1~30」が出題範囲。回数を重ねるにつれて、出題範囲が累積的に増えていく。

注)累積グループ・非累積グループともに、毎週の小テストでは10問ずつ出題され、問題数に違いはありませんでした。唯一の違いは、出題範囲が異なっていたということでした。

最後の小テストの3週間後に事後テストを行い、学習効果を測定しました。その結果、累積グループの得点が非累積グループの得点を大きく上回っていました。両グループの差は非常に大きく、累積テストは非累積テストよりも3.4倍も効果的でした(日英翻訳テストで学習効果を測定した場合)。この結果は、累積テストは非累積テストと比較して語彙習得を大きく促進する可能性を示唆しています。

本研究で興味深かったのは、毎週の小テストでは非累積グループの方が累積グループよりも高い得点をとっていたにもかかわらず、学期末の事後テストでは結果が逆転し、累積グループの方が高い得点につながった、ということです。

この結果は、「短期的に学習を促進する学習法が、長期的な記憶保持を促進するとは限らない」ということを示唆しています。言い換えれば、「短期的に学習を阻害する(ように見える)学習法が、長期的な記憶保持を促進することもある」と言うことです(これは、“desirable difficulties”と呼ばれる現象です)。


図3. 累積グループと非累積グループの小テストおよび事後テスト得点。小テスト得点に関しては、非累積グループ(赤い線)が累積グループ(黒い線)を常に上回っていた。一方、事後テスト得点(グラフの一番右)に関しては両者が逆転し、累積グループ(黒い線)が非累積グループ(赤い線)よりも3倍以上高い得点に結びついた。

また、本研究の非累積グループでは80単語全てが小テストで1回ずつ出題されましたが、累積グループでは8回の小テストで全く出題されない単語が23個ありました。

しかしながら、累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)を有意に上回っていました。言い換えれば、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に思わせるだけで良く、実際には出題しなくても十分な学習効果が期待できる、ということです。

ただし、それと同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)を有意に上回っていました。この結果は、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に期待させるだけで学習効果があるものの、実際に小テストに出題された単語の方が、そうでない単語よりも記憶保持が促進されるということを示唆しています。

すなわち、「この単語は重要なのでどうしても覚えて欲しい」という単語に関しては、小テストの出題範囲に入れるだけでなく、実際に小テストで出題した方が良い、ということです。


図4. 累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)より高かった。同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)よりも高かった。
注)非累積グループではすべての単語が小テストに出題されたため、「非累積グループで小テストに出題されなかった」という組み合わせは存在しない。

毎週の英単語テストにひと手間加える(出題範囲を累積される)だけで単語学習が大きく促進されるというのは、非常に有益な研究結果であると考えられます。次回単語テストをする際には、新出語だけでなく、以前のテストでカバーされた単語も出題範囲に入れてみてはいかがでしょうか?

「なぜ累積テストは非累積テストよりも学習を促進するのか?」という理論的な側面に関心がある方は、以下の拙論をご参照ください。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(参考文献)

Beagley, J. E., & Capaldi, M. (2016). The effect of cumulative tests on the final exam. Problems, Resources & Issues in Mathematics Undergraduate Studies, 26, 878–888. doi:10.1080/10511970.2016.1194343

Khanna, M. M., Brack, A. S. B., & Finken, L. L. (2013). Short- and long-term effects of cumulative finals on student learning. Teaching of Psychology, 40, 175–182. doi:10.1177/0098628313487458

Lawrence, N. K. (2013). Cumulative exams in the introductory psychology course. Teaching of Psychology, 40, 15–19. doi:10.1177/0098628312465858

Mayfield, K. H., & Chase, P. N. (2002). The effects of cumulative practice on mathematics problem solving. Journal of Applied Behavior Analysis, 35, 105–123. doi:10.1901/jaba.2002.35-105

 

Second Language Researchに論文が採択されました

査読付き国際誌Second Language Research (Sage)に論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T. & Elgort, I. (in press). Effects of spacing on contextual vocabulary learning: Spacing facilitates the acquisition of explicit, but not tacit, vocabulary knowledge. Second Language Research.

紙媒体での出版は2021年になるようですが、オンラインで先行公開される予定です。

Routledge発行の書籍”Routledge Handbook of Vocabulary Studies”に論文が掲載されました

Routledge発行の書籍”Routledge Handbook of Vocabulary Studies”に論文が掲載されました。

書籍の詳細は以下の通りです。


書名:Routledge Handbook of Vocabulary Studies

編集:Stuart Webb

出版社:Routledge

目次と執筆者:

1 Introduction
Stuart Webb

Part I UNDERSTANDING VOCABULARY

2 The different aspects of vocabulary knowledge
Paul Nation

3 Classifying and identifying formulaic language
David Wood

4 An overview of conceptual models and thories of lexical representation in the mental lexicon
Brigitta Dóczi

5 The relationship between vocabulary knowledge and language proficiency
David D. Qian and Linda Lin

6 Frequency as a guide for vocabulary usefulness: High-, mid- and low-frequency words
Laura Vilkaitė-Lozdienė and Norbert Schmitt

7 Academic vocabulary
Averil Coxhead

8 Technical vocabulary
Dilin Liu and Lei Lei

9 Factors affecting the learning of single word items
Elke Peters

10 Factors affecting the learning of multiword items
Frank Boers

11 Learning single words vs. multiword items
Ana Pellicer-Sánchez

12 Processing single- and multi-word items
Kathy Conklin

13 L1 and L2 vocabulary size and growth
Imma Miralpeix

14 How does vocabulary fit into theories of second language learning?
Judit Kormos

Part Ⅱ APPROACHES TO TEACHING AND LEARNING VOCABULARY

15 Incidental vocabulary learning
Stuart Webb

16 Intentional L2 vocabulary learning
Seth Lindstromberg

17 Approaches to learning vocabulary inside the classroom
Jonathan Newton

18 Strategies for learning vocabulary
Peter Yongqi Gu

19 Corpus-based wordlists in second language vocabulary research, learning, and teaching
Thi Ngoc Yen Dang

20 Learning words with flashcards and wordcards
Tatsuya Nakata

21 Resources for learning single-word items
Oliver Ballance and Tom Cobb

22 Resources for learning multi-word items
Fanny Meunier

23 Evaluating exercises for learning vocabulary
Batia Laufer
Part III MEASURING KNOWLEDGE OF VOCABULARY

24 Measuring depth of vocabulary knowledge
Akifumi Yanagisawa and Stuart Webb

25 Measuring knowledge of multiword items
Henrik Gyllstad

26 Measuring vocabulary learning progress
Benjamin Kremmel

27 Measuring the ability to learn words
Yosuke Sasao

28 Sensitive measures of vocabulary knowledge and processing: Expanding Nation’s framework
Aline Godfroid

29 Measuring lexical richness
Kristopher Kyle

Part IV KEY ISSUES IN TEACHING, RESEARCHING, AND MEASURING VOCABULARY

30 Key issues in teaching single word items
Joe Barcroft

31 Key issues in teaching multiword items
Brent Wolter

32 Single, but not unrelated: Key issues in teaching single word items
Tessa Spätgens and Rob Schoonen

33 Key issues in researching multiword items
Anna Siyanova-Chanturia and Taha Omidian

34 Key issues in measuring vocabulary knowledge
John Read

35 Resources for researching vocabulary
Laurence Anthony


私は第20章の“Learning words with flashcards and wordcards”を担当し、単語カードを使った語彙学習について論じました。

今のところハードカバー版のみしか出版されていません。価格はハードカバー版が
24,000円以上(Amazon調べ)と少々お高いですが、その内廉価版のソフトカバー版が出版されずはずです。

語彙習得研究の知見を元に日々の語彙テストを最大限に活用する

以前、雑誌「英語教育」(大修館書店)に記事を執筆しました。
その記事の内容をこちらに再掲します。

 


語彙習得研究の知見を元に日々の語彙テストを最大限に活用する

近年、第二言語語彙習得に関する多くの研究が行われています。Nation (2013)は、「語彙習得研究の約30%が過去11年間に行われたものだ」と述べており、語彙習得研究が近年大きな注目を集めていることがうかがえます。

語彙習得研究は、大きく2つに分けることができます。1つは、どのような要因が語彙習得に影響を与えるかを調査する研究です。例えば、「どのような復習スケジュールが語彙保持に最も効果的か?」(e.g., Nakata, 2015a; Nakata & Webb, in press)といった問いは、このような研究で扱われます。もう1つは、語彙テストに関する研究です。例えば、「日本人の高校生はどのくらいの英単語を知っているか?」といった課題を調査するのが、語彙テストに関する研究の具体例です。

前者のような研究は英語教員にとって非常に有益なものです。どのような要因が語彙習得に影響を与えるかを知っていれば、語彙習得の効果を最大限に高めた授業実践をすることができるからです。一方で、実際に研究を行うとなると、限られた授業時間の中で様々な要因を統制し、厳密な実験を行うのはなかなかハードルが高いものです。また、学習者を対象とした実験を行うことに関して、倫理的な抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。一方で、語彙テストを使用する研究であれば、授業の一環として日々の活動にスムーズに組み入れやすいと考えられます。そこで本記事では、主に語彙テストに関する研究を取り上げ、それらを日々の実践に生かす方法について考えたみたいと思います。

なぜ語彙テストをするのか?

語彙テストは教室でどのように活用できるでしょうか? 1つの用途として、学習者が重要な高頻度語(high frequency words)を知っているかどうかを確認することが挙げられます。英語における高頻度語とは、最も頻繁に使われる2,000語を指します。なぜ、英語では高頻度語を覚えることが重要なのでしょうか? それは、「Zipfの法則」によります。Zipfの法則とは、ごく少数の単語があらゆるテキストの大部分を占め、それ以外の大多数の単語は、ほとんどまれにしか出現しないという現象のことです。例えば、英語においては、最も頻度が高い2,000語がBritish National Corpus全体の86.0%を占めますが、それ以外の18,000語は12.8%のみにしかならないことが示されています(Nation, 2013)。英語学習においては、まずこの高頻度語2000を知ることが欠かせません。学習者が高頻度語を知っているかどうかは、Vocabulary Levels Testというテストで測定することができます(リソース①・②)。また、「望月テスト」(リソース③)という日本人学習者用に開発されたテストを使うこともできます。

語彙テストはさらに、学習者のレベルにあったテキストを選ぶ際にも活用することができます。リーディングの授業等で、「教科書以外の英文を扱いたいが、どのテキストが学習者のレベルに合っているのかわからない」という悩みを持たれることがあるかもしれません。このような場合も、語彙テストの結果が役立ちます。これまでの研究では、既知語が95%~98%以上を占める文章であれば、内容理解が可能であることが示されています。例えば、学習者の語彙サイズが2000語である場合は、1000語・2000語レベルの語が95~98%以上を占めている英文テキストの使用が望ましいということです。学習者の語彙サイズは、Vocabulary Size Test(リソース①・②)や望月テスト(リソース③)を使用して測定することが出来ます。また、テキスト中にどのようなレベルの単語がどのくらいの割合で用いられているかを調べる際には、Range(リソース①)やVocabProfile(リソース②)等の語彙レベル分析ソフトが便利です。

テストは最強の語彙学習法!?

語彙テストを実施することには、もう1つの利点があります。それは、テストを受けることで、語彙習得が促進されるということです。ここで、Karpicke & Roediger (2008)によって行われた興味深い研究をご紹介します。彼らの研究では、アメリカ人大学生がスワヒリ語の単語40個をコンピュータ上で学習しました。彼らの研究の目的は、「学習」と「テスト」が第二言語語彙習得に与える影響を調査することでした。ここでいう「学習」とは、「chakula = food」のように、外国語(スワヒリ語)とその母語訳(英語)が提示され、それを覚えることを指します。一方の「テスト」では、「chakula = ???」のように外国語の単語が表され、その母語訳(ここではfood)を入力することが求められました。なお、テストの後には正解(フィードバック)は与えられませんでした。すなわち、chakulaという単語の意味が思い出せなかった場合、正解を確認することはできませんでした。

Karpicke & Roedigerは、学習とテストの回数を操作し、以下の4つの条件の効果を比較しました。

条件1:学習・テストともに約2回

条件2:学習が4回、テストが約2回

条件3:学習が約2回、テストが4回

条件4:学習・テストともに4回

1週間後にスワヒリ語を英語に訳すテストを行い、4つの条件の学習効果を測定しました。その結果、条件4は81%という非常に高い保持率に結びつきました。条件4は学習・テストともに4回と多かったので、この結果は納得できます。最も保持率が低かった(33%)のは、条件1でした。条件1は学習・テストともに約2回と少なかったので、この結果も納得できるものです。それでは、学習回数が多かった条件2と、テスト回数が多かった条件3とでは、どちらの方が効果的だったでしょうか? 意外なことに、保持率が高かったのは条件3の方でした。条件3における1週間後の保持率は81%で、条件4と遜色ありませんでした。一方で、条件2の保持率はわずか36%でした。

この研究から言えることをまとめると、以下のようになります。第1に、学習回数を2回から4回に増やしても、1週間後の保持率は有意には増えません(33⇒36%)。一方で、テストの回数を2回から4回に増やすと、1週間後の保持率は飛躍的に増えます(33⇒81%)。また、テストの回数が4回であれば、学習回数が2回であろうと、4回であろうと、保持率に有意な差はありません(ともに81%)。一言で言えば、語彙習得に影響を与えるのは、学習回数ではなく、テストの回数であるということです。すなわち、テスト自体に学習効果があるのです。これは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テストに学習効果があることを考えると、教室で語彙テストを行うのは、リサーチという観点からだけでなく、学習を促進するという点からも大いに有益であると言えます。

このように、テストは研究者・学習者の双方にとって有益なものですが、採点に手間がかかるという欠点があります。しかし、これまでの研究では、フィードバック(正解)を与えなかったとしても、テストは学習を促進することが示されています。ご紹介したKarpicke & Roedigerの研究でも、テストの後にフィードバックは与えられませんでしたが、それでも大きな学習効果が見られました。

テストを採点して返却する場合、「学習者が内容を忘れてしまってからでは意味がないので、なるべく早く採点を終え、返却しなくてはいけない」というプレッシャーを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、これまでの研究では、「テストの直後にフィードバックを与えても、時間をおいてからフィードバックを与えても、語彙習得に大きな差は見られない」という結果が得られています(Nakata, 2015b)。また、「時間をおいてからフィードバックを与えた方が、直後に与えるよりも記憶保持を促進する」という説もあります。テストを実施したからといって、すぐに採点・返却をしなくてはならないと過度に気負う必要はないと言えます。

今後求められる語彙習得研究

教室で語彙テストに関するリサーチを行う場合、どのようなテーマが考えられるでしょうか? 1つの研究テーマとして、語彙知識の深さを調査することが考えられます。多くの語彙テストでは、学習者が英単語と和訳を結びつけることが出来れば、その単語を「知っている」とみなします。しかし、「英単語を覚える」ということは、必ずしも「英単語の和訳を覚える」こととイコールではありません。語彙知識には、その単語の発音・品詞・語法・コロケーションに関する知識など、様々な側面が含まれます。これが、語彙知識の「深さ」と呼ばれる側面です。「日本人中学生・高校生がどのくらい深い語彙知識を持っており、それが長期的にどのように変化するか?」、「語彙知識の深さの中で、最も重要なのはどの側面か?」といったテーマは、非常に興味深いものです。また、語彙知識の深さに関するテストをすることで、「英単語を覚えることは、和訳を覚えることと必ずしもイコールではない」ということを学習者に認識させるという副次的な効果も期待できます。

また、テストがきわめて効果的な学習法であることを考えると、テスト効果に関するさらなる研究を行うことも有益でしょう。テスト効果に関するこれまでの研究の大半は、短期間の実験に基づいているため、テストが語彙習得に与える影響を長期的に調査する研究が求められます。また、「どのような形式のテストが最も効果的なのか?」、「語彙を定着させるには、どのようなスケジュールで何回テストすべきなのか?」、「テストを解いた後、どのようなフィードバックをどのタイミングで与えるべきなのか?」等、テスト効果を高めるためにはどうしたら良いかを調査することも有益であると考えられます。

ふだんの授業の中で、英単語テストを実施されている方は多いことでしょう。テストにひと工夫することで、学習効果をさらに高めたり、興味深いデータが得られるようになります。語彙テストを中心とした研究に、皆さんも挑戦されてみてはいかがでしょうか?

語彙習得研究に活用できるリソース

①Paul Nationのwebサイト:Vocabulary Levels Test等の語彙テストや、語彙レベル分析ソフトRangeが公開されています。

http://www.victoria.ac.nz/lals/about/staff/paul-nation

②Compleat Lexical Tutor:様々な語彙テストや、語彙指導を促進する有益なツール(例. オンライン・コーパス、語彙レベル分析ソフト等)が無料で利用できます。http://www.lextutor.ca/

③相澤一美・望月正道. (2010)「英語語彙指導の実践アイディア集」東京:大修館書店.単語テストの例が数多く紹介されています。「望月テスト」が収録されたCD-ROMも付属。

参考文献

Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968.

Nakata, T. (2015a). Effects of expanding and equal spacing on second language vocabulary learning: Does gradually increasing spacing increase vocabulary learning? Studies in Second Language Acquisition, 37, 677–711.

Nakata, T. (2015b). Effects of feedback timing on second language vocabulary learning: Does delaying feedback increase learning? Language Teaching Research, 19, 416–434.

Nakata, T., & Webb, S. (in press). Does studying vocabulary in smaller sets increase learning? The effects of part and whole learning on second language vocabulary acquisition. Studies in Second Language Acquisition.

Nation, I. S. P. (2013). Learning vocabulary in another language (2nd ed.). Cambridge, UK: Cambridge University Press.

初出:「英語教育 2016年6月号」(大修館書店)

Wiley-Blackwell発行の査読付き国際誌The Modern Language Journalに論文が掲載されました

Wiley-Blackwell発行の査読付き国際誌 The Modern Language Journal に以下の論文が掲載されました。

Suzuki, Y., Nakata, T., & DeKeyser, R. (2020). Empirical feasibility of the desirable difficulty framework: Toward more systematic research on L2 practice for broader pedagogical implications. The Modern Language Journal , 104, 313-319. doi:10.1111/modl.12625

この論文は、以下の論文へのresponse paperとなっています。

Rogers, J., & Leow, R. P. (2020). Toward greater empirical feasibility of the theoretical framework for systematic and deliberate L2 practice: Comments on Suzuki, Nakata, & Dekeyser (2019). The Modern Language Journal. 104.

この論文を執筆するに至った経緯に関しては、神奈川大学の鈴木祐一さんがJapan Second Language Acquisition Research Forum (JSLARF)のwebサイトで詳しく報告してくれています。詳細は以下をご覧ください。

Japan Second Language Acquisition Research Forum

「英語教師力アップシリーズ第 5 巻授業力アップのための英語情報マニュアル」の第1章・2章を執筆しました。

「英語教師力アップシリーズ第 5 巻授業力アップのための英語情報マニュアル」の第1章・2章を執筆しました。

書籍の詳細は以下の通りです。


書名:英語教師力アップシリーズ第 5 巻授業力アップのための英語情報マニュアル

編著者:佐野富士子 小田寛人 (編)

発売日:2019年11月16日

定価:3,520円(税込)

出版社:開拓社

内容:
生徒の英語力向上をさらに押し進めるよう求められるにつれ、英語教師としての英語力、知識、技能をどう高めたらよいのか、そのような疑問を持ったときに役立つ情報が満載の一冊である。留学するには、調査・研究を行うには、アンケートやテストの結果をどう分析し、どこへどう発表するのか、使える英語力を育成するにはどのような授業を行えばよいのか、国際業務はどのように進めたらよいのかなど、多岐に渡るトピックを扱っている。

目次
第I部 自己研鑽編

第1章 海外留学に向けての出願
第2章 海外現地での授業参観
第3章 リサーチデザインの基礎知識
第4章 テスト作成の基礎知識
第5章 統計の基礎知識
第6章 学会発表(口頭発表)
第7章 論文の書き方と方略
第8章 研究倫理と知的所有権の保護

第II部 授業指導編

第9章 Teacher Talk
第10章 Corrective Feedback
第11章 Communication Strategy
第12章 Skit
第13章 Speech
第14章 Discussion
第15章 Presentation
第16章 Debate

第III章 授業外業務編

第17章 ALT対応:生活面のサポート
第18章 ALT対応:学校業務と授業
第19章 英語版「学校案内」の作成
第20章 国際交流先を開拓するには
第21章 学校内で行われる国際交流活動
第22章 海外研修の企画と指導
第23章 英語外部試験
第24章 派遣業務(報告)

付録:英語教育関連図書一覧
1.〈新しい英語教育について学ぶ・考える〉
2.〈教師力を上げる〉
3.〈自分の英語力を伸ばす・授業での説明のヒントを探る〉
4.〈動機づけを考える〉
5.〈学習者要因と学習方法〉
6.〈言語学習ストラテジーと言語使用ストラテジー〉
7.〈リスニング力とスピーキング力の育成〉
8.〈リーディング力の育成〉
9.〈ライティング力の育成〉
10.〈語彙指導について学ぶ・考える〉
11.〈フォーカス・オン・フォーム、文法〉
12.〈文法を学ぶ〉
13.〈発音や音声に関する知識と説明力を伸ばす〉
14.〈言語の使い方について学ぶ・授業での説明のヒントを探る〉
15.〈小学校英語について考えてみる〉
16.〈テストのあり方について学ぶ〉
17.〈テストの作り方を学ぶ〉
18.〈研究方法を学ぶ〉
19.〈統計の知識を増やす〉
20.〈論文の書き方と発表のしかた〉
21.〈用語集・英語教育の基礎概念の理解〉
22.〈論文・実践報告のための参考図書〉
23.〈その他、教師になる人のための参考図書〉
24.〈英語教師力アップシリーズ〉

開拓社webサイトより)


私は第1章「海外留学に向けての出願」と第2章「海外現地での授業参観」を執筆しました。

ちなみに編著者のお一人である佐野富士子先生は、私の恩師のお一人です。学部生の時に佐野先生の授業を受けたことをきっかけに、第二言語習得研究に興味を持ち、その後応用言語学で博士号を取得するにいたりました。

私を第二言語習得研究の道に進むきっかけを作って下さった佐野先生の書籍に執筆することができ、感無量です。

大学英語教育学会の合同研究会でシンポジウムのパネリストを務めます

3月20日(金)に行われる大学英語教育学会(JACET)の合同研究会で、シンポジウムのパネリストを務めます。詳細は以下の通りです。


JACET英語辞書研究会・JACET英語語彙研究会・関西英語辞書学研究会・JACETリーディング研究会合同研究会

2020年3月20日(金)10:40-17:30

場所:関西学院大学梅田キャンパス(アプローズタワー14階)

参加費:500円(予約不要)

●シンポジウム 題目:「効果的な第二言語(英語)習得への提言」
・「第二言語習得研究に基づく語彙の効果的な教え方・学び方」
中田達也(法政大学)
・「易しい語と難しい語―『コンパスローズ英和辞典』を例に」
赤須薫(東洋大学)
・「辞書力を鍛える?辞書力は英語力と比例する」
赤野一郎(京都外国語大学名誉教授)
・「音読が促進する第二言語(英語)習得」
門田修平(関西学院大学)


当日はsemantic clusteringやテスト効果についてお話しする予定です。新型コロナウイルス感染症の影響が心配ですが・・・

The Modern Language JournalのGuest editorを務めました

査読付き国際誌The Modern Language Journal (Wiley-Blackwell)のGuest editorを、鈴木祐一氏(神奈川大学)・Robert DeKeyser氏(メリーランド大学)と共同で務めました(Vol. 103, Issue 3)。

我々が編集した特集号のテーマは、”Optimizing Second Language Practice in the Classroom: Perspectives from Cognitive Psychology”というもので、認知心理学の知見(分散学習、テスト効果、適性など)を元に、効果的な外国語学習を行う方法について考察しています。

日本はもちろん、米国・英国・カナダ・ニュージーランド・スペインなど、様々な国を拠点とする研究者の論文が収録された、国際色豊かな内容になっています。

特集号の目次は以下のとおりです。

1. Optimizing Second Language Practice in the Classroom: Perspectives From Cognitive Psychology (YUICHI SUZUKI, TATSUYA NAKATA, & ROBERT DEKEYSER)

2. Weighing up Exercises on Phrasal Verbs: Retrieval Versus Trial-and-Error Practices (BRIAN STRONG & FRANK BOERS)

3. Investigating Distribution of Practice Effects for the Learning of Foreign Language Verb Morphology in the Young Learner Classroom (ROWENA E. KASPROWICZ, EMMA MARSDEN, & NICK SEPHTON)

4. Distribution of Practice Effects in the Acquisition and Retention of L2 Mandarin Tonal Word Production (MAN LI & ROBERT DEKEYSER)

5. Mixing Grammar Exercises Facilitates Long-Term Retention: Effects of Blocking, Interleaving, and Increasing Practice (TATSUYA NAKATA & YUICHI SUZUKI)

6. Should We Listen or Read? Modality Effects in Implicit and Explicit Knowledge (KATHY MINHYE KIM & ALINE GODFROID)

7. Investigating Effects of Working Memory Training on Foreign Language Development (YUKO HAYASHI)

8. Cognitive Individual Differences as Predictors of Improvement and Awareness under Implicit and Explicit Feedback Conditions (YUCEL YILMAZ & GISELA GRANENA)

9. Perfecting Practice (PATSY MARTIN LIGHTBOWN)

10. The Desirable Difficulty Framework as a Theoretical Foundation for Optimizing and Researching Second Language Practice (YUICHI SUZUKI, TATSUYA NAKATA, & ROBERT DEKEYSER)

特集号は以下からご覧いただけます。

https://onlinelibrary.wiley.com/toc/15404781/2019/103/3

Studies in Second Language Acquisitionに共著論文が掲載されました

査読付き国際誌Studies in Second Language Acquisition(Cambridge University Press)に、鈴木祐一先生(神奈川大学)との共著論文が掲載されました。

Nakata, T., & Suzuki, Y. (2019). Effects of massing and spacing on the learning of semantically related and unrelated wordsStudies in Second Language Acquisition. 41, 287–311. doi:10.1017/S0272263118000219 [PDF]

研究の概要

外国語の単語を学ぶ上で、果物の名前(例. apple, banana, orange)、動物の名前(例. dog, cat, horse)、曜日の名前(例. Sunday, Monday, Tuesday)など、意味的に関連した単語を同時に学習することは一般的に行われていると考えられます。

意味的に関連した単語をまとめて学習することは、“semantic clustering”と呼ばれています。semantic clusteringは、日本に限らず、様々な国で広く行われている学習法であると指摘されています。

しかし、多くの研究者は、semantic clusteringは干渉(interference)を引き起こすため、語彙習得を阻害する有害な学習法であると警鐘を鳴らしています。例えば、right(右)とleft(左)という単語を同時に学習すると、それぞれが競合(干渉)し、どちらが「右」でどちらが「左」を意味するのか、混乱してしまうということです。

「semantic clusteringが学習を阻害する」という主張は、語彙習得に関する多くの専門書籍や学術論文において見られます。しかし、その主張の根拠として挙げられている研究を仔細に検討すると、「semantic clusteringが学習を阻害する」という主張は必ずしも妥当ではないように考えられます。

そこで、我々の研究では、semantic clusteringに関する今までの研究の限界をふまえた上で、semantic clusteringの効果を改めて調査しました。

また、「意味的に類似した単語を学習する上では、特に分散学習が効果的である」という主張を検証するため、集中学習(massed learning)と分散学習(spaced learning)が意味的に類似した単語の学習に与える効果も検証しました。

研究の結果

研究結果を要約すると、以下の通りです。

(a) これまで「semantic clusteringが学習を阻害する」と考えられてきたが、事後テスト得点において、そのような結果は得られなかった。

(b) しかし、意味的に関連がある単語の方が、そうでない単語よりも、より多くの干渉エラーに結びついた。すなわち、weasel(イタチ)という単語を和訳することが求められた時に、「イタチ」ではなく別の哺乳類の名前(アライグマやカワウソなど)を答えてしまうことが多かった。

(c) 意味的に類似した単語と類似していない単語のいずれにおいても、分散学習は集中学習よりも効果的だった。しかし、「意味的に類似した単語を学習する上では、特に分散学習が効果的である」という仮説とは反対に、分散学習は意味的に類似していない単語の学習に特に有効であった。

コメント

本論文は所定の費用を支払うことでopen accessとして無料で公開されています。「意味的に似た単語を一緒に学ぶのは良くない」というのは語彙習得研究者の間では長い間定説になっていましたが、その定説に疑問を投げかけたという点で、色々な方に読んでいただきたいと思い、open accessにしてもらいました。

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