事前登録(プレレジ)した論文が査読付き国際誌Language Learningに掲載された話

この記事の前編は、こちらです。

鈴木祐一氏(神奈川大学)とStella He氏(名古屋商科大学)との共著論文が査読付き国際誌Language Learning (Wiley)に掲載されました。

Nakata, T., Suzuki, Y. & He, X. (2023). Costs and benefits of spacing for second language vocabulary learning: Does relearning override the positive and negative effects of spacing? Language Learning, 73. doi:10.1111/lang.12553

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/lang.12553

この論文はデータ収集の前に査読付き事前登録(pre-registration、いわゆるプレレジ)を行い、registered reportとして出版されました。

本記事では、registered reportの投稿・査読プロセスをご紹介します。

Registered reportの投稿・査読プロセス

1. Stage 1 manuscriptの提出

序論(Introduction)・仮説(Hypotheses)・研究手法(Method)・分析計画(Data Analysis)のみを記載したStage 1 manuscriptを提出し、査読を受ける。査読に通ると、in-principle acceptanceとなる。

査読に通ったStage 1 manuscriptをOpen Science Framework(OSF)にアップロードすることで、pre-registration(事前登録)が完了。

2. データ収集・分析

Stage 1 manuscriptが査読に通ってから、はじめてデータ収集および分析を行う。なお、データ収集や分析の際には、Stage 1 manuscriptに記述した内容から逸脱することは許されない(Stage 1 manuscriptに記述した内容を変更する場合は、事前にEditorの許可を得ることが求められる)。

3. Stage 2 manuscriptの提出

Stage 1 manuscriptに結果(Results)・考察(Discussion)・結論(Conclusion)等を追加したStage 2 manuscriptを提出し、再度査読を受ける。なお、序論・仮説・研究手法・分析計画等に関しては、Stage 1 manuscriptの内容に変更を加えることは原則できない(「未来形で書いていたMethodの文章を過去形に書き変える」などの細かい修正は可能)。Stage 2 manuscriptが査読に通ると、registered reportとして出版される。

実際のスケジュールは以下の通りです。

2020年1月:Stage 1 manuscriptの提出
2020年8月:Stage 1 manuscriptが査読に通る(in-principle acceptance)
2022年8月:Stage 2 manuscriptの提出
2022年10月:Stage 2 manuscriptが査読に通る

Stage 1 manuscriptが査読に通ってからStage 2 manuscriptを提出するまで、約2年かかってしまいました。これは、新型コロナウイルス感染症の影響でデータ収集が行えなかったことによります。

なお、研究の事前登録(プレレジ)に関しては、以下の記事もご参照ください。

https://www.enago.jp/academy/pre-registration-of-study/

ところで、研究の事前登録にはどのような利点があるのでしょうか? データ収集前に研究手法や分析方法を事前登録することで、「データ収集をした後に、分析結果に符合するような仮説を後付けで立てる」「データ収集をした後に、自分に都合の良い結果が出るような分析方法を恣意的に採用する」「データ収集をした後に、自分に都合の良い結果のみを選択的に報告する」「統計的に有意な結果が出るまでデータを収集し続ける」などの行為をある程度抑止し、研究の透明性が高まると考えられています。

感想

Registered reportに投稿したのは初めてであったため、色々と戸惑うことがありました。まず、Stage 1と2を通して、全部で5人の査読者がいたため、査読に通るまで多くの労力がかかりました。

また、「データ収集や分析の際には、Stage 1 manuscriptに記述した内容から逸脱することは許されない」「データ収集をいつ行ったかがわかるように、タイムスタンプを残しておくこと(in-principle acceptanceの後にデータ収集したことを証明する必要があるため)」などのregistered report独自のルールがあり、最後まで「このやり方で本当にあっているのかな?」という緊張感がありました。

注)Language Learning誌のregistered reportの詳細については、こちらのpdf(13ページあります)をご覧ください。

一方、registered reportの利点としては、データ収集前に研究手法や分析方法等について査読を受けられることがあります。そのため、実際にデータ収集が完了してから、研究手法や分析方法についてダメ出しされることはないため、「Stage 1 manuscriptに記載された通りに研究を進めれば、結果がどうであれアクセプトしてもらえる」という点では安心感がありました。

また、査読者から事前に研究手法や分析計画等についてアドバイスを受けることができるため、まるで査読者に研究指導をして頂いているようで、より良い研究を一緒に作り上げるという貴重な経験をさせて頂きました。

さらに、Stage 2の査読は、「Stage 1 manuscriptに記載された通りに、データ収集や分析を行ったか」「Stage 2 manuscriptに記載された考察が妥当か」という点を中心に行われます。そのため、Stage 2の査読はスムーズに進みました(Stage 2 manuscriptを提出した時点で、「単語カードによる語彙学習には何の意味もないので、この研究は査読に値しない」などとちゃぶ台返しされることはありません)。

最後に、本研究のデータ収集には半沢蛍子先生(東京理科大学)にご協力頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

「英単語学習は第一印象が9割」査読付き国際誌Language Learningに論文が掲載されました

鈴木祐一氏(神奈川大学)とStella He氏(名古屋商科大学)との共著論文が査読付き国際誌Language Learning (Wiley)に掲載されました。

Nakata, T., Suzuki, Y. & He, X. (2023). Costs and benefits of spacing for second language vocabulary learning: Does relearning override the positive and negative effects of spacing? Language Learning, 73. doi:10.1111/lang.12553

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/lang.12553

この論文はデータを収集する前に研究の事前登録(pre-registration、いわゆるプレレジ)を行い、registered reportとして出版されました。

以下に、研究の概要をご紹介します。

背景

今回の研究の目的は、初回学習時(initial learning)と再学習時(relearning)における復習スケジュールの効果を調べることでした。

これまでの研究では、initial learningにおいて長い復習間隔(long spacing)を用いた方が、短い間隔(short spacing)を用いるよりも長期的な語彙学習を促進することが示されています。

しかし、relearningを行うと、initial learningでのlong spacingの優位性は消滅してしまう可能性も指摘されています(relearning override effectと呼ばれる現象です)。

本研究では、以下の4つの組み合わせを比較することで、initial learningとrelearningにおいてどのようなスケジュールを用いるのが最も効果的かを調べました。

条件 Initial learning Relearning
(1)   Short-Short Short spacing Short spacing
(2)   Short-Long Short spacing Long spacing
(3)   Long-Short Long spacing Short spacing
(4)   Long-Long Long spacing Long spacing

「長い復習間隔を用いた方が、短い間隔を用いるよりも長期的な語彙学習を促進する」というこれまでの研究に基づくと、initial learningとrelearningともに長い復習間隔を使うLong-Long条件(4)が最も効果的だと予想されます。

一方で、「はじめは学習負荷を低くして、後から難易度を徐々に上げた方が良い」という考えによると、initial learningでは短い間隔を用い、relearningでは長い間隔を用いるShort-Long条件(2)が最も効果的だと予想されます。

結果

Relearningの1週間後に行われた事後テスト得点は、以下のようになりました。

Long-Long > Long-Short > Short-Long = Short-Short

4条件の中で最も効果的だったのは、Long-Long条件でした。これは、「長い復習間隔を用いた方が、短い間隔を用いるよりも長期的な語彙学習を促進する」というこれまでの研究結果を支持するものです。

意外なことに、2番目に効果的だったのはLong-Short条件でした。この結果は、「relearningを行うと、initial learningでのlong spacingの優位性は消滅してしまう」という考え(relearning override effect)と一致していません。また、「はじめは学習負荷を低くして、後から難易度を徐々に上げた方が良い」という考えとも異なるものです。

本研究の結果は、「長期的な語彙習得を促進するためには、initial learningで長い復習間隔を用いることが最重要であり、relearningでどのようなスケジュールを用いるかはあまり重要ではない」ということを示唆しています。

人間関係にたとえるなら、「良好な関係を築くためには第一印象が一番大事であり、第一印象が悪いと後からいくら頑張っても挽回できない」と言えるかもしれません。

ということで、この論文の裏タイトルは、「英単語学習は第一印象が9割」になりました。

Registered reportの投稿・査読プロセス

この論文はデータを収集する前に研究の事前登録(pre-registration、プレレジ)を行い、registered reportとして出版されました。

registered reportの投稿・査読プロセスに関しては、この記事の続編をご覧ください。

事前登録(プレレジ)した論文が査読付き国際誌Language Learningに掲載された話

『英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法』(講談社現代新書)という本を書きました

この度、『英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法』という書籍を出版することになりました。


英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法
(講談社現代新書)

著者:中田達也

定価:990円(本体900円+税)
* Kindle版は825円(税込)です。

出版社:講談社

ページ数:240ページ

発売:2022818


英語を学習する上で、イディオム・コロケーション・複合語・句動詞などの定型表現が重要な役割を果たすことが近年の研究により示されています。

この書籍では、主に以下の3点について論じています。

(1)
定型表現が英語学習において果たす役割
(2) 定型表現の分類と特徴
(3) 定型表現の効果的な学習法

書籍は3章から構成されます。以下に、書籍の内容を一部ご紹介いたします。

はじめに

・「定型表現」とは何か 文法と単語のはざま

・見過ごされてきた定型表現

・ほとんど研究されてこなかった

・母語話者の言葉の多くが実は定型表現

・定型表現がいよいよ「主役」へ

・本書を執筆した背景

・本書の構成

1 定型表現が重要な理由

・定型表現を学ぶ「8つの利点」

(1) 
言語使用の正確性が上がる

(2) 
言語使用の流暢性(=スピード)が上がる

(3) 
言語を使って様々な機能を遂行できるようになる

(4) 
状況にあった適切な言語を使用できるようになる

(5) 
すでに知っている単語への知識が深まる

(6) 
未知の単語を覚えるきっかけとなる

(7) 
文法知識の習得が促進される

(8) 
ある共同体(コミュニティ)への帰属を示す

・『実況パワフルプロ野球』が示す定型表現の重要性

・「ネット弁慶」を英語で言えますか?

・母語話者だけでなく、学習者も定型表現を使うべき?

・定型表現を知ることのデメリット

・定型表現への執着が強すぎて2回離婚するはめになったある言語学者の話

2 奥深き定型表現の世界―その分類と特徴

・8種類の定型表現:イディオム、コロケーション、二項表現、複合語、句動詞、慣習表現、構文、固定フレーズ

「イディオム」と「コロケーション」の違いを説明できますか?

・kick the bucketは「首つり自殺をしようとする人がバケツの上に乗り、それを足で蹴ることで死んだため、 『死ぬ』という意味になった」と一般的に考えられているが、この説に信憑性はなさそう

なぜ母語話者はdecidelieの代わりにわざわざmake a decisionやtell a lieと言うのか

英語学習者にとって句動詞が難しい3つの理由

・ladies and gentlemenとは言うが、gentlemen and ladiesとは言わない理由

・a green housea greenhouseの違い

定型表現の厄介な4つの特徴

・「M & M’s」と「ロックンロール」の意外な関係

・take a day offの反対はtake a day on

3 4技能を伸ばす定型表現の学習法

・多読・多聴の効果を高めるための工夫

・『アグレッシブ烈子』で学ぶ英語定型表現

・Webサイトの活用

・熟語集の活用

・和訳の活用

・カタカナ英語の活用

・英語母語話者は「ペアルック」や「ペーパードライバー」などの和製英語を理解できるのか?

・スピーキング・ライティングによる定型表現の学習

・まとめ─最重要課題はすでにクリアしている

おわりに

・2002年から2022年までの筆者の半生(ニュージーランドでの5年間や大阪での4年間)を勝手に振り返る

・謝辞

書籍で紹介しているwebサイト

本書籍では、定型表現学習に役立つwebサイトを多数ご紹介しています。以下はその一部です。

IDIOM Search
English-Corpora.org
Sketch Engine
Language Reactor
AWSuM
ColloCaid
Google Ngram Viewer
Youglish
Netspeak
Just the Word
英辞郎


全国の書店、およびアマゾンなどのオンライン書店で発売中です。

英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法

アマゾンではKindle版も発売中です。Kindle版(825円)の方が書籍(990円)よりもお買い得です。

どうぞよろしくお願いいたします!


PS 書籍の帯には「最小の努力でネイティブに近づく英語学習の新定番」という宣伝文句が書かれていますが、母語話者を理想とすることが望ましいかについては様々な意見があります。

また、以下の論文で論じられているように、「母語話者」(native speakers)や「非母語話者」(non-native speakers)という用語自体が不適切であるという指摘もあります。

Dewaele, J.-M. (2018). Why the dichotomy ‘L1 versus LX user’ is better than ‘native versus non-native speaker.’ Applied Linguistics, 39, 236–240.

詳しくは、書籍の第1章をご参照ください。

Studies in Second Language Acquisition (Cambridge University Press) にコロケーション学習に関する論文が採択されました

Cambridge University Press発行の査読付き国際誌Studies in Second Language Acquisitionにコロケーション学習に関する論文が採択されました。

詳細は以下の通りです。

Yamagata, S., Nakata, T., & Rogers, J. (in press). Effects of distributed practice on the acquisition of verb-noun collocations. Studies in Second Language Acquisition. doi:10.1017/S0272263122000225

Abstract

Given the importance of collocational knowledge for second language learning, how collocation learning can be facilitated is an important question. The present study examined the effects of three different practice schedules on collocation learning: node massed, collocation massed, and collocation spaced. In the node-massed schedule, three collocations for the same node verb were studied on the same day. In the collocation-massed schedule, three collocations for the same node verb were studied in different weeks. In the collocation-spaced schedule, participants encountered multiple collocations for the same node verb within a single day; at the same time, multiple collocations for the same node verb were repeated each week. To examine whether the knowledge of studied collocations could be transferred to unstudied collocations containing the same node, posttests included novel collocations that were not encountered during the treatment. Results suggested that the collocation-spaced schedule led to the largest gains for both studied and unstudied collocations.

書籍『英語学習の科学』が研究社から発売されました

編著者をつとめた書籍、『英語学習の科学』が研究社から発売されました。

タイトル:『英語学習の科学
編著:中田達也・鈴木祐一
定価:2,200円(本体2,000円+税)
発売:2022年4月25日

Amazonの紹介ページはこちらです。

帯に「第二言語習得研究の専門家11人に英語学習について聞いてみました」とある通り、第二言語習得研究(SLA)の立場から効果的な英語学習法等について論じる内容となっています。

「効果的な英語学習法を知りたい」という一般の学習者はもちろん、SLAについて本格的に学びたい学部生・大学院生にも役に立つ内容を目指しました。

書籍の詳細な目次は、出版社のwebサイトをご参照ください。

本書の最大の特徴は、豪華な執筆陣です。本書籍の執筆者はいずれもSLA研究の最前線で活躍しており、国内のみならず国際的にもそれぞれの分野で専門家として認知されています。

以下に本書籍の執筆者をご紹介します(敬称略)。

第1章 SLA 研究から考える英語学習の大原則 中田達也・鈴木祐一
第2章 単語の学習 中田達也
第3章 文法の学習 鈴木祐一
第4章 発音の学習 濱田陽
第5章 リスニングの学習 門田修平
第6章 リーディングの学習 濱田彰
第7章 スピーキングの学習 神谷信廣
第8章 ライティングの学習 新谷奈津子
第9章 英語学習と個人差 新多了
第10章 動機づけ・学習スタイル・学習ストラテジー 廣森友人
第11章 子どもの英語学習 鈴木渉
第12章 留学による英語学習 佐々木みゆき
終わりに―SLA研究の活用法と注意点 中田達也・鈴木祐一

詳細なプロフィールは以下のとおりです(「好きな英語学習法」 or 「役立った英語学習法」についてもコメントして頂きました)。

濱田陽(はまだ・よう)[第4章] 秋田大学高等教育グローバルセンター准教授。博士(教育学)。専門分野は発音・リスニング。著書に、『Teaching EFL Learners Shadowing for Listening』(Routledge)がある。好きな英語学習法はカラオケシャドーイング。

門田修平(かどた・しゅうへい)[第5章] 関西学院大学・大学院教授。Tryon社フェロー(顧問)。博士(応用言語学)。専⾨は第二言語習得。著書に『Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition』(Routledge)などがある。役立つ学習法はシャドーイング・音読。

濱田彰(はまだ・あきら)[第6章] 神戸市外国語大学外国語学部准教授。博士(言語学)。専門分野は第二言語習得(特に読解・語彙の学習)。共著に『Rによる教育データ分析入門』(オーム社)がある。役に立った英語学習法はストラテジーを学ぶこと。

神谷信廣(かみや・のぶひろ)[第7章] 群馬県立女子大学教授。博士 (第二言語学)。専門分野は教授第二言語習得。近著に「What characteristics of recasts facilitate accurate perception when overheard by true beginners?」(Language Teaching Research)がある。好きな英語学習法は洋画鑑賞。

新谷奈津子(しんたに・なつこ)[第8章] 関西大学教授。博士(言語教育)。専門分野は第二言語習得。著書に『The Role of Input-Based Tasks in Foreign Language Instruction for Young Learners』がある。オススメの学習法は海外の有名人ツイートを読むこと。

新多了(にった・りょう)[第9章] 立教大学外国語教育研究センター教授。博士(応用言語学)。専門分野は第二言語習得(特に個人差要因)。著書に『「英語の学び方」入門』(研究社)などがある。好きな英語学習法は10分間のフリーライティング。

廣森友人(ひろもり・ともひと)[第10章] 明治大学国際日本学部教授。博士(国際広報メディア)。専門分野は英語教育・第二言語習得(特に学習者要因)。著書に『英語学習のメカニズム』(大修館書店)がある。役立ったと思う英語学習法は多読・多聴。

鈴木渉(すずき・わたる)[第11章] 宮城教育大学教授。博士(教育学)。専門分野は第二言語習得。編著書に『外国語学習での暗示的・明示的知識』『実践例で学ぶ第二言語習得研究に基づく英語指導』(大修館書店)がある。好きな英語学習法は多読と多聴。

佐々木みゆき(ささき・みゆき)[第12章] 早稲田大学教育・総合科学学術院教授。博士(応用言語学)。専門分野は第二言語ライティング論。最近の共著に『The Handbook of Second and Foreign Language Writing』(De Gruyter Mouton社)がある。好きな英語学習法は洋書をオーディオブックunabridged版で聴くこと。

【編著者】
中田達也(なかた・たつや)[第1章・第2章・終わりに] 立教大学異文化コミュニケーション学部准教授。博士(応用言語学)。専門分野は第二言語習得(特に語彙の習得)。著書に『英単語学習の科学』(研究社)、分担執筆に『Encyclopedia of Applied Linguistics』(Wiley-Blackwell)、『Routledge Handbook of Vocabulary Studies』(Routledge)などがある。好きな英語学習法は留学。

鈴木祐一(すずき・ゆういち)[第1章・第3章・終わりに] 神奈川大学准教授。博士(第二言語習得)。専門分野は第二言語習得・外国語教育。Studies in Second Language Acquisitionなど国際学術誌の編集委員を務める。共著に『高校英語授業における文法指導を考える』や『高校生は中学英語を使いこなせるか?』(アルク)などがある。好きな英語学習法は、山中湖での英語合宿(ITC)。

従来の「英語学習本」とは一味違う、英語学習に真に役立つ画期的な書籍になったと手応えを感じています。オンライン書店アマゾンや、全国の書店で好評発売中です!

『英語学習の科学』(Amazon)

 

Studies in Second Language Acquisition (Cambridge University Press) に言語適性に関する論文が採択されました

Cambridge University Press発行の査読付き国際誌Studies in Second Language Acquisitionに言語適性に関する論文が採択されました。ロンドン大学斉藤一弥氏の研究チームとの共同研究です。

詳細は以下の通りです。

Saito, K., Sun, H., Kachlicka, M., Robert, J., Nakata, T., & Tierney, A. (in press). Domain-general auditory processing explains multiple dimensions of L2 acquisition in adulthood. Studies in Second Language Acquisition.

Abstract

In this study, we propose a hypothesis that domain-general auditory processing, a perceptual anchor of L1 acquisition, can serve as the foundation of successful post-pubertal L2 learning. This hypothesis was tested with 139 post-pubertal L2 immersion learners by linking individual differences in auditory discrimination across multiple acoustic dimensions to the segmental, prosodic, lexical, and morphosyntactic dimensions of L2 proficiency. Overall, auditory processing was a primary determinant of a range of participants’ proficiency scores, even after biographical factors (experience, age) were controlled for. The link between audition and proficiency was especially clear for L2 learners who had passed beyond the initial phase of immersion (length of residence > 1 year). The findings suggest that greater auditory processing skill benefits post-pubertal L2 learners immersed in naturalistic settings for a sufficient period of time by allowing them to better utilize received input, which results in greater language gains and leads to more advanced L2 proficiency in the long run (similar to L1 acquisition).

【10月3日- 10月4日 オンライン開催】ESRC-JSLARF Symposium on Second Language Acquisition

国内外の第一線でご活躍の第二言語習得関連の研究者を招待し、国際シンポジウムを開催します。Japan Second Language Acquisition Research Forum (JSLARF)とESRC(Link)の共催です。

様々な理論的・実証的アプローチから、第二言語習得研究の最前線についての2日間の講演に加えて、博士課程在籍中の院生のショットガン発表大会および大学院生および若手研究者向けのラウンドテーブルも行います。

  • 開催日時:2020年10月3日(土)10:00 – 16:20 および 10月4日(日)9:00 – 14:35
  • 会場:ウェブ会議システムZOOM上で実施 (参加登録をされた方には、前日にURL及びパスワードをお送りします)
  • 参加費:無料
  • 使用言語:英語
  • 参加申し込み・プログラム詳細:シンポジウムのウェブサイトのLink をご覧ください。

登壇予定者

October 3rd (Sat)

  1. Yuko Goto Butler (The University of Pennsylvania): Digital gaming and young L2 learning
  2. Shuhei Kadota (Kwansei Gakuin University): Exploring the input effect of shadowing training in L2 acquisition
  3. Yuichi Suzuki (Kanagawa University) & Hyenjeong Jeong (Tohoku University): The neural foundations of explicit and implicit knowledge
  4. Nobuhiro Kamiya(Gunma Prefectural Women’s University): What do mismatching gestures teach us?
  5. Kyoko Motobayashi (Ochanomizu University): Mobility, identity, and the social turn in applied linguistics
  6. Miyuki Sasaki (Waseda University): Investigating L2 writing development: What lies ahead and beyond
  7. Natsuko Shintani (Kansai University): Comparing task-based language teaching and traditional instruction

October 4th (Sun)

Round Table: Getting published in peer-reviewed international SLA journals: Tips for graduate students and early career researchers

  1. Junya Fukuta (Chuo University): Getting published in international journals in PhD Program in Japan
  2. Aki Tsunemoto (Concordia University): Getting published in international journals in PhD Program in North America
  3. Shungo Suzuki (Lancaster University): What I wish I knew when I started my PhD in the UK

Talks

  1. Takumi Uchihara (University of Western Ontario): To what extent does mode of input affect the learning of pronunciation of second language words?
  2. Ryo Nitta (Rikkyo University): Understanding learner agency from a complex dynamic systems perspective
  3. Wataru Suzuki (Miyagi University of Education): Languaging: Theory, research, and pedagogy
  4. Kazuya Saito (UCL) & Adam Tinery (Birkbeck): Having a good ear as a foundation of second language acquisition

本シンポジウムは、英国・日本の2国間グラントの支援を受けています [Link])。

ご多忙の時期とは存じますが、多くの方にご参加いただければ幸いです。

実行委員:鈴木祐一(神奈川大学)、中田達也(立教大学)、内原卓海(ウェスタンオンタリオ大学)

【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

私が執筆した以下の論文が、TESOL Quarterly (Wiley-Blackwell)に掲載されました。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(研究の背景)

中学校や高校の英語授業で、単語に関する小テストは一般的に行われていることと思います。私も中学生や高校生の頃に英語の授業で単語帳が配布され、毎回決められた範囲に関する小テストが行われていたことを覚えています。

「テスト自体に学習効果がある」という研究結果を考慮すると、単語テストの学習効果をいかにして高めることが出来るかは、重要な研究課題であると考えられます。

* なお、テスト自体に学習効果があるというのは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テスト効果に関しては、以下の記事をご覧ください。

【研究結果】本当に何かを習得したいなら、学習ではなく〇〇が効果的

先日出版された私たちの研究では、英語語彙学習における非累積テスト(non-cumulative test)と累積テスト(cumulative test)の効果を比較しました。

ここで言う「非累積テスト」とは、それぞれの出題範囲に重なりがないテストを指します。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半で学習した内容が出題される時、中間テストと期末テストの出題範囲には重複がありません。よって、これらのテストは非累積テストです。

一方、「累積テスト」では、その名の通り出題範囲が累積的に増えていきます。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半だけでなく前半でも学習した内容が出題される時、このテストは累積テストと呼ばれます。

数学や心理学の分野においては、累積テストの方が非累積テストよりも学習を促進することが示されています (Beagley & Capaldi, 2016; Khanna, Brack, & Finken, 2013; Lawrence, 2013; Mayfield & Chase, 2002)。しかしながら、外国語学習においても累積テストが記憶保持を促進するかどうかは、これまでの研究では明らかになっていません。

(研究の概要と結果)

上で述べたような背景をふまえ、我々の研究では英語語彙学習における累積テストと非累積テストの効果を比較しました。

参加者は薬学を専攻している日本の大学生72名でした。参加者は非累積グループと累積グループとに割り当てられました。いずれのグループでも、参加者は8週間にわたって80の医学用語を学習しました。授業は1週間に1回行われ、毎週10の英単語が導入されました。翌週の授業では、学習した単語に関する小テストが行われました。

非累積グループでは、前の週で導入された10単語が次週の小テストで出題されました。一方、累積グループでは、前の週で導入された単語だけでなく、それ以前の授業で導入された単語も出題範囲として指定されていました。

以下に非累積グループと累積グループのイメージを示します。

図1. 非累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語11~20」、小テスト3では「単語21~30」が出題範囲。それぞれの出題範囲に重なりがない。
図2. 累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語1~20」、小テスト3では「単語1~30」が出題範囲。回数を重ねるにつれて、出題範囲が累積的に増えていく。

注)累積グループ・非累積グループともに、毎週の小テストでは10問ずつ出題され、問題数に違いはありませんでした。唯一の違いは、出題範囲が異なっていたということでした。

最後の小テストの3週間後に事後テストを行い、学習効果を測定しました。その結果、累積グループの得点が非累積グループの得点を大きく上回っていました。両グループの差は非常に大きく、累積テストは非累積テストよりも3.4倍も効果的でした(日英翻訳テストで学習効果を測定した場合)。この結果は、累積テストは非累積テストと比較して語彙習得を大きく促進する可能性を示唆しています。

本研究で興味深かったのは、毎週の小テストでは非累積グループの方が累積グループよりも高い得点をとっていたにもかかわらず、学期末の事後テストでは結果が逆転し、累積グループの方が高い得点につながった、ということです。

この結果は、「短期的に学習を促進する学習法が、長期的な記憶保持を促進するとは限らない」ということを示唆しています。言い換えれば、「短期的に学習を阻害する(ように見える)学習法が、長期的な記憶保持を促進することもある」と言うことです(これは、“desirable difficulties”と呼ばれる現象です)。


図3. 累積グループと非累積グループの小テストおよび事後テスト得点。小テスト得点に関しては、非累積グループ(赤い線)が累積グループ(黒い線)を常に上回っていた。一方、事後テスト得点(グラフの一番右)に関しては両者が逆転し、累積グループ(黒い線)が非累積グループ(赤い線)よりも3倍以上高い得点に結びついた。

また、本研究の非累積グループでは80単語全てが小テストで1回ずつ出題されましたが、累積グループでは8回の小テストで全く出題されない単語が23個ありました。

しかしながら、累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)を有意に上回っていました。言い換えれば、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に思わせるだけで良く、実際には出題しなくても十分な学習効果が期待できる、ということです。

ただし、それと同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)を有意に上回っていました。この結果は、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に期待させるだけで学習効果があるものの、実際に小テストに出題された単語の方が、そうでない単語よりも記憶保持が促進されるということを示唆しています。

すなわち、「この単語は重要なのでどうしても覚えて欲しい」という単語に関しては、小テストの出題範囲に入れるだけでなく、実際に小テストで出題した方が良い、ということです。


図4. 累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)より高かった。同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)よりも高かった。
注)非累積グループではすべての単語が小テストに出題されたため、「非累積グループで小テストに出題されなかった」という組み合わせは存在しない。

毎週の英単語テストにひと手間加える(出題範囲を累積される)だけで単語学習が大きく促進されるというのは、非常に有益な研究結果であると考えられます。次回単語テストをする際には、新出語だけでなく、以前のテストでカバーされた単語も出題範囲に入れてみてはいかがでしょうか?

「なぜ累積テストは非累積テストよりも学習を促進するのか?」という理論的な側面に関心がある方は、以下の拙論をご参照ください。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(参考文献)

Beagley, J. E., & Capaldi, M. (2016). The effect of cumulative tests on the final exam. Problems, Resources & Issues in Mathematics Undergraduate Studies, 26, 878–888. doi:10.1080/10511970.2016.1194343

Khanna, M. M., Brack, A. S. B., & Finken, L. L. (2013). Short- and long-term effects of cumulative finals on student learning. Teaching of Psychology, 40, 175–182. doi:10.1177/0098628313487458

Lawrence, N. K. (2013). Cumulative exams in the introductory psychology course. Teaching of Psychology, 40, 15–19. doi:10.1177/0098628312465858

Mayfield, K. H., & Chase, P. N. (2002). The effects of cumulative practice on mathematics problem solving. Journal of Applied Behavior Analysis, 35, 105–123. doi:10.1901/jaba.2002.35-105

 

TESOL Quarterly (Wiley) に論文が採択されました

Wiley発行の査読付き国際誌TESOL Quarterlyに論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (in press). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly.

Abstract:
Research suggests that testing (or retrieval) has the potential to enhance second language (L2) vocabulary learning. Given the positive effects of testing, how L2 vocabulary learning from tests can be optimized is an important question. One way to increase the benefits of testing may be to use cumulative tests, where not only recently studied but also previously studied materials are tested. This study compared the effects of cumulative and non-cumulative quizzes on L2 vocabulary learning. Seventy-two Japanese university students were randomly assigned to the cumulative or non-cumulative group and studied 80 low frequency English vocabulary items over nine weekly classes. In both groups, participants were introduced to 10 target items in each class and completed a vocabulary quiz in the following class. In the noncumulative group, the 10 items introduced in the previous class appeared in vocabulary quizzes in the following class. In the cumulative group, not only target items introduced in the previous class but also items introduced in earlier classes were tested. Posttest results demonstrated that the cumulative tests may be twice (receptive) or three times (productive) more effective than non-cumulative tests. The findings suggest that vocabulary learning can be improved significantly by making simple changes to vocabulary quizzes.

この研究の概要を解説したブログ記事を書きました。以下をご覧ください。

【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

Second Language Research (Sage) に論文が採択されました

査読付き国際誌Second Language Research (Sage)に論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T. & Elgort, I. (in press). Effects of spacing on contextual vocabulary learning: Spacing facilitates the acquisition of explicit, but not tacit, vocabulary knowledge. Second Language Research.

紙媒体での出版は2021年になるようですが、オンラインで先行公開される予定です。