ネイティブ・スピーカーが教える、発音向上のための実践的なアドバイス
単語レベルの発音を良くするには
単語レベルの発音を良くするためのアドバイスとして、「英語にある44の音素をすべて発音できるようになること」ということを、3人のアメリカ人英語教師は共通して指摘しました。
前回の記事でも触れていますが、英語には20の母音と24の子音、あわせて44の音素があるのに対して、日本語にはその約半分の音素しかありません。日本語には存在しない英語の音素は、意識して練習しないと、正しく発音することはできません。「英語にあるすべての音素を発音できるようにする」ということは、単語レベルの発音を改善する上で、不可欠です。
しかしながら、現実問題として、日本人に英語の音素をすべて習得させることは難しいと感じている教師もいるようです。Toddは、以下のように指摘しました。「鏡を使って唇や舌の位置を確かめながら、発音練習をすることで、日本語にはない英語の音素を練習することはできるでしょう。ただ、そうして英語の音素が発音できるようになったとしても、実際に英語を話している時に正しい発音ができるかというと、必ずしもそうではありません。私も以前、授業で英語の音素を個別に取り上げ、発音練習をさせたことがありますが、練習では上手く言えていても、実際の会話の中でそれを維持できる学生はあまりいませんでした。私の個人的な意見ですが、単語レベルよりも、文レベルの発音練習の方が、より効果が高いようです。」
一方でScottは、学生に単語レベルでの発音練習をさせることは効果的であると感じているようでした。彼は、次のように言いました。「rやthのように日本語にはない発音でも、きちんと訓練をすれば、大概の学生はうまく出来るようになると感じています。私は英語の授業に加えて、聖歌隊に歌の指導をしています。聖歌の多くは、英語、ドイツ語、ラテン語で書かれていますので、学生には発音練習も長時間させていますが、きちんと練習をすれば、彼らの発音はとても良くなるんですよ。
聖歌隊では、音素から練習を開始し、練習のユニットを徐々に大きくしてゆくという方法で発音指導をしています。まず、1つ1つの音素について、正しい唇と舌の使い方を練習します。その後、音節→単語→文というように、段々と練習の単位を大きくしてゆきます。次に、歌詞を歌うような調子で読ませ、英語のリズムを練習させます。この時は、のどを開いて、音が口の中で反響するようにさせます。」
「日本語にはない音素を訓練するためには、唇の筋肉の使い方を覚えるのがポイントです。ちょうど、スポーツのために筋肉を鍛えるのと同じようなものです。例えば、水泳であれば、まずゆっくりと泳いでみて、正しい筋肉の使い方を訓練することから始めるでしょう。ゆっくりと泳ぎながら、コーチから正しい泳ぎ方を教えてもらい、筋肉の使い方に慣れるわけです。そうして初めて、正しい方法で泳げるようになります。
英語の発音に関しても、初めは難しい音をゆっくりと練習し、唇や舌の使い方が間違っていたら、教師に矯正してもらうのです。そのような訓練を続けることで、日本語にはない音素も習得することが出来るでしょう。」
ToddとScottは、英語特有の音素の指導に関して、正反対の考えを持っているようですが、それは二人が学生に接する時間の長さに関係しているといえるでしょう。授業時間内でしか学生に接する機会のないToddに対して、Scottは授業以外の課外活動でも長時間学生を指導しています。授業のように限られた時間内では、音素1つ1つについて訓練をするのは現実的ではなく、あまり効果もないようですが、聖歌隊での指導のように時間をかければ、英語特有の音素を習得させることは可能であるようです。
加えてMelissaも、日本人の多くが困難に感じている[l]と[r]の発音について、以下のような違いがあると説明をしてくれました。「lの発音をする際には、舌を上歯茎の裏につけ、それをはじくことで音を出します。rの発音をする際には、舌は歯茎や口蓋から離れたところに置いておき、どこにも触れないようにします。rの音を出すときには、舌を使ってはいけません。舌ではなく、唇を使って音を出すのです。外国語の発音をするときには、母国語では使わないような唇や舌の動きをしなくてはいけません。例えば、長母音の[u: ]という音を出すときには、唇を前に突き出さなくてはいけませんが、日本語ではこのような唇の使い方はしません。日本語の発音に慣れていると、少し奇妙に感じるかもしれませんが、躊躇せず、唇を動かすと良いでしょう。」
文レベルの発音を良くするには
次に、文レベルでの発音をよくするためにはどうしたらいいかという点についてご紹介いたします。文レベルの発音に関して今回のインタビューをまとめると、
「リズム」、「リンキング」、「ウィークニング」、「ピッチ・レンジ」の4点が重要であると、指摘がありました。以下に、この4点についてのポイントをあげます。
1. リズム
英語のリズムについて、Toddは以下のように指摘しました。「英語のリズムというのは、日本語のそれとは全く違います。具体的には、日本語では音節がリズムの単位になるのに対して、英語では強勢がリズムの単位になります。
日本語は"syllable-timed"な言語であるといわれ、音節がリズムの単位です。ですから、ある音節と次の音節の間隔は、常に一定です。一方で、英語は"stress-timed"な言語であるといわれ、強勢がリズムの単位となります。つまり、英語では音節と音節の間隔はバラバラですが、強勢と強勢の間隔が常に一定になるのです。
このように、2つの言語のリズムは全く違うので、文レベルの発音を改善するためには、まずは英語のリズムに慣れることが重要になります。」
2. リンキング
英語では子音で終わる語の後に母音がきていると、語末の子音と語頭の母音がくっつき、あたかもひとつの語のようになることがあります。これが、リンキングと呼ばれる現象です。Scottによれば、例えば以下のような例でリンキングが起きます。
@ kids/out
A Will/it
3. ウィークニング
ウィークニングとは、tやdなどの子音で終わっているときに、語尾を破裂させずに、はっきり発音しなくなる現象のことです。Scottによれば、
suit jacket
という例では、" jacket"の最後の"t"は弱化し、はっきりとは発音しなくなります。
4. ピッチ・レンジ
最後にScottは、ピッチ・レンジについては、「日本語で話す時は、音域は比較的狭くなるようですが、英語では、日本語よりもより広い音域を使用します。つまり、英語を話す際には、時には意識して声を高くしたり、低く下げるようにすることが必要になります。」と言うポイントがあげられました。
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