「英語を学ぶすべての人へ」 > 日本人の英語の発音を良くするには?

ひきつづき発音向上のためのアドバイスと、発音向上の必要性について考えてみます……。

続・ネイティブ・スピーカーが教える、発音向上のための実践的なアドバイス

1. 急ぎすぎてはいけない 

 我々ノンネイティブにとって、ネイティブ・スピーカーの話し方は、とても早口に聞こえます。そして、少しでもネイティブらしく、自然に聞こえるように、つい早口で話してしまう方もいらっしゃるでしょう。

 しかしながら、MelissaとToddによれば、学習者が早口で話そうとすると、かえって聞き取りにくくなることが多いようです。例えばToddは、「英語が理解されない時、その原因のほとんどは、学習者が急いで話していることだと思います」と指摘しました。またMelissaは、「早口でしゃべろうと思う必要はないのです。ノン・ネイティブに早口で話されると、理解するのが難しくなるときがあります。はっきりと話すことのほうが、早く話すことよりも通じるコツです」と言いました。

 自分の英語にある程度自信が出てくる中級者・上級者ほど、native−likeにしようとして、早口になってしまう傾向があるのかもしれません。そのような英語学習者にとって、このアドバイスは常に心にとめておく必要があるものでしょう。

2. 極端な省略形は使うべきではない

 英語が上達すればするほど、より自然な発話をしようと、"gonna"や"wanna"などの省略形を使う人が増えてくるようです。この傾向に対して、Toddは、「学習者は、"gonna"や"wanna"などの省略形を使うべきではありません。ノン・ネイティブにとって、これらの表現を自然に使うのは、とても難しいものです」といい、極端な省略形を使用すると、英語が聞き取りにくくなることがあると指摘しました。

 このような傾向は、"gonna"や"wanna"に限らず、スラングやあまり一般的でない表現などについてもあてはまるものと考えられます。

3. LとRの違いよりも、強勢の間違いのほうが誤解を呼びがちである

単語レベルでの音素の発音練習は実用的ではなく、聞き取りやすさにそれほど影響を与えないという立場をとるToddは、「lとrを正しく発音することができなかったとしても、大抵の場合は文脈で何を言おうとしているかが判るものです。それよりも、単語の強勢(アクセント)の位置を間違うと、ネイティブ・スピーカーに正しく理解されないことが多いと私は思います。単語レベルの発音練習をするとしたら、音素よりも、各単語の強勢の位置に気をつけたほうがいいのではないでしょうか」と指摘しました。

4. 遠慮せずに自分がネイティブであるかのように振舞いなさい 

 外国語で話すことに、ある種のためらいや恥じらいを感じてしまうのは、誰にでもあることでしょう。この傾向に対してScottは、「外国語を話すときに、遠慮をしている日本人が多いような気がします。しかし、自信のない態度で話していると、声も小さくなりがちですし、真意が伝わらないこともあります。外国語を話す時には、自分自身がネイティブ・スピーカーであると思って、自信を持って振舞うことが必要だと思います」と指摘しました。多少発音は悪くても、堂々と自信を持って話をした方が、ネイティブ・スピーカーに好感が持たれるのかもしれません。

 「自信を持って外国語を話すためにはどうしたらいいと思われますか?」と私が尋ねたところ、彼は以下のように答えました。「やはり、ネイティブ・スピーカーと話をする機会をたくさん持つことです。私も日本に来た当初は自分の日本語に自信がありませんでしたが、多くの日本人と話しているうちに、少しずつ自分の日本語に自信が持てるようになって来ました。『日本人に自分の日本語が通じた』という経験をしているうちに、日本語で話すことへの苦手意識が段々となくなってゆきました。本気で英語に慣れようと思ったら、やはり英語で話さなければいけない環境に、自分の体を持っていくことでしょうね。」

5. 外国語を話すときには、性格までも変えたほうが良い

 Scottは更に、「外国語を話しているときには、自分自身の性格も変えるべきだと思います」と言いました。「私には、韓国語と日本語と英語を話す韓国人の友人がいます。彼は日本語を話すときには、おとなしく礼儀正しい感じがしますが、英語を話すときには一転してout−goingな性格になります。言語は文化と密接に結びついたものですから、外国語を話す時には、その言語が話される文化圏の基準に適応した態度で振舞うことも必要かもしれません。」

6. 私には判っても、すべてのネイティブが理解できるとは限らない

最後に、何かコメントがあったら言ってくださいとの問いに、Melissaは、以下のように答えました。「一口にネイティブ・スピーカーと言っても、ノン・ネイティブの発音に寛大な人と、そうでない人がいるということを覚えておいたほうが良いでしょう。例えば、私は英語の教員であり、学習者が話す英語を耳にする機会が非常に多くありますから、多少ネイティブとは違った発音であったとしても、意図を推測して理解することができます。」

 「また、私は職業として英語を教えていますので、聞き取りにくい英語でも、熱心に理解しようと努めています。しかし、英語圏の大都会に行ったら、あくせくとしている人が多いでしょうから、ノン・ネイティブの言うことにゆっくり耳を傾けてくれるような寛大な人は少ないかもしれません。日本にいる外国人相手に英語が通じるようになったとしても、その英語が必ずしも海外で通じるとは限らないということは、覚えておいたほうが良いでしょう。」

発音向上の必要性を考える


 3ページにわたって、アメリカ人英語教師を対象に行った、英語の発音に関するインタビュー結果をご紹介してきました。インタビューの結論としては、「正しいトレーニングを行えば、日本人の英語の発音をよくすることは可能である」ということができるでしょう。

 単語レベルの発音に関しては、Scottが指摘するように、日本語にはない英語の音素を中心に、英語の音素を一つ一つ正確に発音することができるようにトレーニングを行うことが効果的なようです。また、音素と比較すると軽視されがちですが、単語の強勢の位置を正しく把握することも、重要であるということが判りました。

 文レベルの発音に関しては、前ページで触れた、「リズム」、「リンキング」、「ウィークニング」、「ピッチ・レンジ」などを中心にトレーニングをすると、より聞き取りやすい英語になるようです。

発音以外のところにも問題がある

 今回のインタビューは、「日本人が英語でコミュニケーションする上での障害になっていると思われる、発音の問題を改善するにはどうしたらいいのか」という問いに答えを出すために行いました。しかしながら、ネイティブ・スピーカーの意見を聞いてみると、日本人が英語を話す上での積極性や自信のなさも、コミュニケーションの大きな阻害要因になっているということが判りました。

よくよく考えてみれば、日本人同士が日本語で話すときでも、小さな声でぼそぼそしゃべったり、口数が少なくて説明不足なのでは、自分の真意を相手に伝えることは難しいものです。そのようなことは考えれば当たり前ですが、とかく外国語となると発音を気にするあまり、積極性や自信に関すると二の次になってしまうという傾向があるようです。

スピーキング力の中で、発音があまり重要な要素ではないという指摘は、1980年に南イリノイ大学で行われた研究結果とも一致しています。その研究では、70人の外国人留学生に面接方式で英語スピーキングのテストを行い、「発音」・「文法」・「語彙」・「流暢さ」・「理解度」という5つの観点から採点をしました。その結果、面接の総合点と最も相関が高かったのは「語彙」の得点であり(相関係数は0.93)、以下、「理解度」、「文法」、「流暢さ」が続きました。「発音」の得点と総合点との相関係数はわずか0.43で、5つの項目の中で最も低かったという結果が出ています。(注釈1)

発音はあくまでもスピーキング力を構成する一要素に過ぎず、その重要性を誇大視すべきではないということを、今回のインタビューを通して再確認することができました。

Native−likeな発音が果たして望ましいのか

 最後に、最近の外国語教育の傾向として、ノン・ネイティブの学習者は、必ずしもnative−likeな発音を習得する必要はないという主張があることを指摘しておきたいと思います。特に、英語はもはやいわゆる英語圏の言語ではなく、あらゆる国々で第二言語や共通語として用いられており、国際語としての地位を確立していますが、国際語としての英語を学ぶことを標榜するのであれば、「ネイティブ・スピーカー」という概念自体も、もはや有用ではなくなります。そして、フランス語圏の人はフランス語訛りで、中国語圏の人は中国語訛りで、そして日本人は日本語訛りで英語をしゃべることが、正当化されてしかるべきでしょう。

アメリカの国務長官であったキッシンジャーは、ドイツからの移民であったためドイツ語訛りがぬけませんでしたが、それが彼の魅力の1つにもなっているともいいます。また、国連などの国際的な会議では、英語を母国語としない人々が自分の母国語訛りで堂々と英語で演説している姿をよく見かけます。母国語訛りを維持することで、国際化の時代において失われがちな自分たちのアイデンティティを、非英語圏の人々も維持することができるという主張もあります。
「日本人の英語の発音をよくするにはどうしたらいいか」ということをテーマに取り上げてきましたが、日本人の発音を「良くする」ことは本当に必要なのか、そして、「良い発音」とはそもそも何なのかということを考える契機にもなりました。


(参考文献)

岡 秀夫. 「英語のスピーキング. 英語教育学モノグラフ・シリーズ」 東京:大修館書店, 1984.
島岡丘、「現代英語の音声 リスニングと発音」東京: 研究社出版, 1978.
−−−.「教室の音声学」東京: 研究社出版, 1986.
杉田敏.「NHKラジオ やさしいビジネス英語 1998年4月号」東京: NHK出版, 1998.
竹林滋・斎藤弘子.「英語音声学入門」東京: 大修館書店, 1998.
日野信行.「トーフルで650点―私の英語修業」東京: 南雲堂, 1987.
Crystal, David, English as a Global Language, Cambridge: Cambridge University Press, 1997.

(注釈1)詳細については、Hendricks,D., G.Scholz, R.Spurling, M.Jonhson and L.Vandenburg(1980)" Oral Proficiency testing in an intensive English language program". Oller and Perkins(eds.)を参照。

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