Studies in Second Language Acquisition (Cambridge University Press) に言語適性に関する論文が採択されました

Cambridge University Press発行の査読付き国際誌Studies in Second Language Acquisitionに言語適性に関する論文が採択されました。ロンドン大学斉藤一弥氏の研究チームとの共同研究です。

詳細は以下の通りです。

Saito, K., Sun, H., Kachlicka, M., Robert, J., Nakata, T., & Tierney, A. (in press). Domain-general auditory processing explains multiple dimensions of L2 acquisition in adulthood. Studies in Second Language Acquisition.

Abstract

In this study, we propose a hypothesis that domain-general auditory processing, a perceptual anchor of L1 acquisition, can serve as the foundation of successful post-pubertal L2 learning. This hypothesis was tested with 139 post-pubertal L2 immersion learners by linking individual differences in auditory discrimination across multiple acoustic dimensions to the segmental, prosodic, lexical, and morphosyntactic dimensions of L2 proficiency. Overall, auditory processing was a primary determinant of a range of participants’ proficiency scores, even after biographical factors (experience, age) were controlled for. The link between audition and proficiency was especially clear for L2 learners who had passed beyond the initial phase of immersion (length of residence > 1 year). The findings suggest that greater auditory processing skill benefits post-pubertal L2 learners immersed in naturalistic settings for a sufficient period of time by allowing them to better utilize received input, which results in greater language gains and leads to more advanced L2 proficiency in the long run (similar to L1 acquisition).

【10月3日- 10月4日 オンライン開催】ESRC-JSLARF Symposium on Second Language Acquisition

国内外の第一線でご活躍の第二言語習得関連の研究者を招待し、国際シンポジウムを開催します。Japan Second Language Acquisition Research Forum (JSLARF)とESRC(Link)の共催です。

様々な理論的・実証的アプローチから、第二言語習得研究の最前線についての2日間の講演に加えて、博士課程在籍中の院生のショットガン発表大会および大学院生および若手研究者向けのラウンドテーブルも行います。

  • 開催日時:2020年10月3日(土)10:00 – 16:20 および 10月4日(日)9:00 – 14:35
  • 会場:ウェブ会議システムZOOM上で実施 (参加登録をされた方には、前日にURL及びパスワードをお送りします)
  • 参加費:無料
  • 使用言語:英語
  • 参加申し込み・プログラム詳細:シンポジウムのウェブサイトのLink をご覧ください。

登壇予定者

October 3rd (Sat)

  1. Yuko Goto Butler (The University of Pennsylvania): Digital gaming and young L2 learning
  2. Shuhei Kadota (Kwansei Gakuin University): Exploring the input effect of shadowing training in L2 acquisition
  3. Yuichi Suzuki (Kanagawa University) & Hyenjeong Jeong (Tohoku University): The neural foundations of explicit and implicit knowledge
  4. Nobuhiro Kamiya(Gunma Prefectural Women’s University): What do mismatching gestures teach us?
  5. Kyoko Motobayashi (Ochanomizu University): Mobility, identity, and the social turn in applied linguistics
  6. Miyuki Sasaki (Waseda University): Investigating L2 writing development: What lies ahead and beyond
  7. Natsuko Shintani (Kansai University): Comparing task-based language teaching and traditional instruction

October 4th (Sun)

Round Table: Getting published in peer-reviewed international SLA journals: Tips for graduate students and early career researchers

  1. Junya Fukuta (Chuo University): Getting published in international journals in PhD Program in Japan
  2. Aki Tsunemoto (Concordia University): Getting published in international journals in PhD Program in North America
  3. Shungo Suzuki (Lancaster University): What I wish I knew when I started my PhD in the UK

Talks

  1. Takumi Uchihara (University of Western Ontario): To what extent does mode of input affect the learning of pronunciation of second language words?
  2. Ryo Nitta (Rikkyo University): Understanding learner agency from a complex dynamic systems perspective
  3. Wataru Suzuki (Miyagi University of Education): Languaging: Theory, research, and pedagogy
  4. Kazuya Saito (UCL) & Adam Tinery (Birkbeck): Having a good ear as a foundation of second language acquisition

本シンポジウムは、英国・日本の2国間グラントの支援を受けています [Link])。

ご多忙の時期とは存じますが、多くの方にご参加いただければ幸いです。

実行委員:鈴木祐一(神奈川大学)、中田達也(立教大学)、内原卓海(ウェスタンオンタリオ大学)

【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

私が執筆した以下の論文が、TESOL Quarterly (Wiley-Blackwell)に掲載されました。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(研究の背景)

中学校や高校の英語授業で、単語に関する小テストは一般的に行われていることと思います。私も中学生や高校生の頃に英語の授業で単語帳が配布され、毎回決められた範囲に関する小テストが行われていたことを覚えています。

「テスト自体に学習効果がある」という研究結果を考慮すると、単語テストの学習効果をいかにして高めることが出来るかは、重要な研究課題であると考えられます。

* なお、テスト自体に学習効果があるというのは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テスト効果に関しては、以下の記事をご覧ください。

【研究結果】本当に何かを習得したいなら、学習ではなく〇〇が効果的

先日出版された私たちの研究では、英語語彙学習における非累積テスト(non-cumulative test)と累積テスト(cumulative test)の効果を比較しました。

ここで言う「非累積テスト」とは、それぞれの出題範囲に重なりがないテストを指します。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半で学習した内容が出題される時、中間テストと期末テストの出題範囲には重複がありません。よって、これらのテストは非累積テストです。

一方、「累積テスト」では、その名の通り出題範囲が累積的に増えていきます。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半だけでなく前半でも学習した内容が出題される時、このテストは累積テストと呼ばれます。

数学や心理学の分野においては、累積テストの方が非累積テストよりも学習を促進することが示されています (Beagley & Capaldi, 2016; Khanna, Brack, & Finken, 2013; Lawrence, 2013; Mayfield & Chase, 2002)。しかしながら、外国語学習においても累積テストが記憶保持を促進するかどうかは、これまでの研究では明らかになっていません。

(研究の概要と結果)

上で述べたような背景をふまえ、我々の研究では英語語彙学習における累積テストと非累積テストの効果を比較しました。

参加者は薬学を専攻している日本の大学生72名でした。参加者は非累積グループと累積グループとに割り当てられました。いずれのグループでも、参加者は8週間にわたって80の医学用語を学習しました。授業は1週間に1回行われ、毎週10の英単語が導入されました。翌週の授業では、学習した単語に関する小テストが行われました。

非累積グループでは、前の週で導入された10単語が次週の小テストで出題されました。一方、累積グループでは、前の週で導入された単語だけでなく、それ以前の授業で導入された単語も出題範囲として指定されていました。

以下に非累積グループと累積グループのイメージを示します。

図1. 非累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語11~20」、小テスト3では「単語21~30」が出題範囲。それぞれの出題範囲に重なりがない。
図2. 累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語1~20」、小テスト3では「単語1~30」が出題範囲。回数を重ねるにつれて、出題範囲が累積的に増えていく。

注)累積グループ・非累積グループともに、毎週の小テストでは10問ずつ出題され、問題数に違いはありませんでした。唯一の違いは、出題範囲が異なっていたということでした。

最後の小テストの3週間後に事後テストを行い、学習効果を測定しました。その結果、累積グループの得点が非累積グループの得点を大きく上回っていました。両グループの差は非常に大きく、累積テストは非累積テストよりも3.4倍も効果的でした(日英翻訳テストで学習効果を測定した場合)。この結果は、累積テストは非累積テストと比較して語彙習得を大きく促進する可能性を示唆しています。

本研究で興味深かったのは、毎週の小テストでは非累積グループの方が累積グループよりも高い得点をとっていたにもかかわらず、学期末の事後テストでは結果が逆転し、累積グループの方が高い得点につながった、ということです。

この結果は、「短期的に学習を促進する学習法が、長期的な記憶保持を促進するとは限らない」ということを示唆しています。言い換えれば、「短期的に学習を阻害する(ように見える)学習法が、長期的な記憶保持を促進することもある」と言うことです(これは、“desirable difficulties”と呼ばれる現象です)。


図3. 累積グループと非累積グループの小テストおよび事後テスト得点。小テスト得点に関しては、非累積グループ(赤い線)が累積グループ(黒い線)を常に上回っていた。一方、事後テスト得点(グラフの一番右)に関しては両者が逆転し、累積グループ(黒い線)が非累積グループ(赤い線)よりも3倍以上高い得点に結びついた。

また、本研究の非累積グループでは80単語全てが小テストで1回ずつ出題されましたが、累積グループでは8回の小テストで全く出題されない単語が23個ありました。

しかしながら、累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)を有意に上回っていました。言い換えれば、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に思わせるだけで良く、実際には出題しなくても十分な学習効果が期待できる、ということです。

ただし、それと同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)を有意に上回っていました。この結果は、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に期待させるだけで学習効果があるものの、実際に小テストに出題された単語の方が、そうでない単語よりも記憶保持が促進されるということを示唆しています。

すなわち、「この単語は重要なのでどうしても覚えて欲しい」という単語に関しては、小テストの出題範囲に入れるだけでなく、実際に小テストで出題した方が良い、ということです。


図4. 累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)より高かった。同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)よりも高かった。
注)非累積グループではすべての単語が小テストに出題されたため、「非累積グループで小テストに出題されなかった」という組み合わせは存在しない。

毎週の英単語テストにひと手間加える(出題範囲を累積させる)だけで単語学習が大きく促進されるというのは、非常に有益な研究結果であると考えられます。次回単語テストをする際には、新出語だけでなく、以前のテストでカバーされた単語も出題範囲に入れてみてはいかがでしょうか?

「なぜ累積テストは非累積テストよりも学習を促進するのか?」という理論的な側面に関心がある方は、以下の拙論をご参照ください。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(参考文献)

Beagley, J. E., & Capaldi, M. (2016). The effect of cumulative tests on the final exam. Problems, Resources & Issues in Mathematics Undergraduate Studies, 26, 878–888. doi:10.1080/10511970.2016.1194343

Khanna, M. M., Brack, A. S. B., & Finken, L. L. (2013). Short- and long-term effects of cumulative finals on student learning. Teaching of Psychology, 40, 175–182. doi:10.1177/0098628313487458

Lawrence, N. K. (2013). Cumulative exams in the introductory psychology course. Teaching of Psychology, 40, 15–19. doi:10.1177/0098628312465858

Mayfield, K. H., & Chase, P. N. (2002). The effects of cumulative practice on mathematics problem solving. Journal of Applied Behavior Analysis, 35, 105–123. doi:10.1901/jaba.2002.35-105

 

TESOL Quarterly (Wiley) に論文が採択されました

Wiley発行の査読付き国際誌TESOL Quarterlyに論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (in press). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly.

Abstract:
Research suggests that testing (or retrieval) has the potential to enhance second language (L2) vocabulary learning. Given the positive effects of testing, how L2 vocabulary learning from tests can be optimized is an important question. One way to increase the benefits of testing may be to use cumulative tests, where not only recently studied but also previously studied materials are tested. This study compared the effects of cumulative and non-cumulative quizzes on L2 vocabulary learning. Seventy-two Japanese university students were randomly assigned to the cumulative or non-cumulative group and studied 80 low frequency English vocabulary items over nine weekly classes. In both groups, participants were introduced to 10 target items in each class and completed a vocabulary quiz in the following class. In the noncumulative group, the 10 items introduced in the previous class appeared in vocabulary quizzes in the following class. In the cumulative group, not only target items introduced in the previous class but also items introduced in earlier classes were tested. Posttest results demonstrated that the cumulative tests may be twice (receptive) or three times (productive) more effective than non-cumulative tests. The findings suggest that vocabulary learning can be improved significantly by making simple changes to vocabulary quizzes.

この研究の概要を解説したブログ記事を書きました。以下をご覧ください。

【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

Second Language Research (Sage) に論文が採択されました

査読付き国際誌Second Language Research (Sage)に論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T. & Elgort, I. (in press). Effects of spacing on contextual vocabulary learning: Spacing facilitates the acquisition of explicit, but not tacit, vocabulary knowledge. Second Language Research.

紙媒体での出版は2021年になるようですが、オンラインで先行公開される予定です。

立教大学異文化コミュニケーション学部・異文化コミュニケーション研究科に移籍しました

2020年4月から立教大学異文化コミュニケーション学部異文化コミュニケーション研究科に移籍しました。

担当科目は以下の通りです。

* 学部
(春学期)

College Life Planning
英語コミュニケーション教育学
Overview of Language and Communication Studies(オムニバス科目)
言語コミュニケーション研究入門(オムニバス科目)
海外留学研修

(秋学期)
Introduction to the Study of English(英語学概論)
Theories of Second Language Acquisition(第2言語習得理論)
英語科教育研究
専門演習
言語コミュニケーション研究入門(オムニバス科目)
海外留学研修

* 大学院
(春学期)

言語コミュニケーション研究基礎論
言語教育研究特殊講義A
研究指導演習
研究指導

(秋学期)
Teaching Practicum
研究指導演習
研究指導

2020年3月まで勤務した法政大学文学部英文学科には、2020年度も引き続き兼任講師として出講いたします。

今年度もどうぞよろしくお願いいたします。

Routledge発行の書籍”Routledge Handbook of Vocabulary Studies”に論文が掲載されました

Routledge発行の書籍”Routledge Handbook of Vocabulary Studies”に論文が掲載されました。

書籍の詳細は以下の通りです。


書名:Routledge Handbook of Vocabulary Studies

編集:Stuart Webb

出版社:Routledge

目次と執筆者:

1 Introduction
Stuart Webb

Part I UNDERSTANDING VOCABULARY

2 The different aspects of vocabulary knowledge
Paul Nation

3 Classifying and identifying formulaic language
David Wood

4 An overview of conceptual models and thories of lexical representation in the mental lexicon
Brigitta Dóczi

5 The relationship between vocabulary knowledge and language proficiency
David D. Qian and Linda Lin

6 Frequency as a guide for vocabulary usefulness: High-, mid- and low-frequency words
Laura Vilkaitė-Lozdienė and Norbert Schmitt

7 Academic vocabulary
Averil Coxhead

8 Technical vocabulary
Dilin Liu and Lei Lei

9 Factors affecting the learning of single word items
Elke Peters

10 Factors affecting the learning of multiword items
Frank Boers

11 Learning single words vs. multiword items
Ana Pellicer-Sánchez

12 Processing single- and multi-word items
Kathy Conklin

13 L1 and L2 vocabulary size and growth
Imma Miralpeix

14 How does vocabulary fit into theories of second language learning?
Judit Kormos

Part Ⅱ APPROACHES TO TEACHING AND LEARNING VOCABULARY

15 Incidental vocabulary learning
Stuart Webb

16 Intentional L2 vocabulary learning
Seth Lindstromberg

17 Approaches to learning vocabulary inside the classroom
Jonathan Newton

18 Strategies for learning vocabulary
Peter Yongqi Gu

19 Corpus-based wordlists in second language vocabulary research, learning, and teaching
Thi Ngoc Yen Dang

20 Learning words with flashcards and wordcards
Tatsuya Nakata

21 Resources for learning single-word items
Oliver Ballance and Tom Cobb

22 Resources for learning multi-word items
Fanny Meunier

23 Evaluating exercises for learning vocabulary
Batia Laufer
Part III MEASURING KNOWLEDGE OF VOCABULARY

24 Measuring depth of vocabulary knowledge
Akifumi Yanagisawa and Stuart Webb

25 Measuring knowledge of multiword items
Henrik Gyllstad

26 Measuring vocabulary learning progress
Benjamin Kremmel

27 Measuring the ability to learn words
Yosuke Sasao

28 Sensitive measures of vocabulary knowledge and processing: Expanding Nation’s framework
Aline Godfroid

29 Measuring lexical richness
Kristopher Kyle

Part IV KEY ISSUES IN TEACHING, RESEARCHING, AND MEASURING VOCABULARY

30 Key issues in teaching single word items
Joe Barcroft

31 Key issues in teaching multiword items
Brent Wolter

32 Single, but not unrelated: Key issues in teaching single word items
Tessa Spätgens and Rob Schoonen

33 Key issues in researching multiword items
Anna Siyanova-Chanturia and Taha Omidian

34 Key issues in measuring vocabulary knowledge
John Read

35 Resources for researching vocabulary
Laurence Anthony


私は第20章の“Learning words with flashcards and wordcards”を担当し、単語カードを使った語彙学習について論じました。

今のところハードカバー版のみしか出版されていません。価格はハードカバー版が
24,000円以上(Amazon調べ)と少々お高いですが、その内廉価版のソフトカバー版が出版されずはずです。

語彙習得研究の知見を元に日々の語彙テストを最大限に活用する

以前、雑誌「英語教育」(大修館書店)に記事を執筆しました。
その記事の内容をこちらに再掲します。

 


語彙習得研究の知見を元に日々の語彙テストを最大限に活用する

近年、第二言語語彙習得に関する多くの研究が行われています。Nation (2013)は、「語彙習得研究の約30%が過去11年間に行われたものだ」と述べており、語彙習得研究が近年大きな注目を集めていることがうかがえます。

語彙習得研究は、大きく2つに分けることができます。1つは、どのような要因が語彙習得に影響を与えるかを調査する研究です。例えば、「どのような復習スケジュールが語彙保持に最も効果的か?」(e.g., Nakata, 2015a; Nakata & Webb, in press)といった問いは、このような研究で扱われます。もう1つは、語彙テストに関する研究です。例えば、「日本人の高校生はどのくらいの英単語を知っているか?」といった課題を調査するのが、語彙テストに関する研究の具体例です。

前者のような研究は英語教員にとって非常に有益なものです。どのような要因が語彙習得に影響を与えるかを知っていれば、語彙習得の効果を最大限に高めた授業実践をすることができるからです。一方で、実際に研究を行うとなると、限られた授業時間の中で様々な要因を統制し、厳密な実験を行うのはなかなかハードルが高いものです。また、学習者を対象とした実験を行うことに関して、倫理的な抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。一方で、語彙テストを使用する研究であれば、授業の一環として日々の活動にスムーズに組み入れやすいと考えられます。そこで本記事では、主に語彙テストに関する研究を取り上げ、それらを日々の実践に生かす方法について考えたみたいと思います。

なぜ語彙テストをするのか?

語彙テストは教室でどのように活用できるでしょうか? 1つの用途として、学習者が重要な高頻度語(high frequency words)を知っているかどうかを確認することが挙げられます。英語における高頻度語とは、最も頻繁に使われる2,000語を指します。なぜ、英語では高頻度語を覚えることが重要なのでしょうか? それは、「Zipfの法則」によります。Zipfの法則とは、ごく少数の単語があらゆるテキストの大部分を占め、それ以外の大多数の単語は、ほとんどまれにしか出現しないという現象のことです。例えば、英語においては、最も頻度が高い2,000語がBritish National Corpus全体の86.0%を占めますが、それ以外の18,000語は12.8%のみにしかならないことが示されています(Nation, 2013)。英語学習においては、まずこの高頻度語2000を知ることが欠かせません。学習者が高頻度語を知っているかどうかは、Vocabulary Levels Testというテストで測定することができます(リソース①・②)。また、「望月テスト」(リソース③)という日本人学習者用に開発されたテストを使うこともできます。

語彙テストはさらに、学習者のレベルにあったテキストを選ぶ際にも活用することができます。リーディングの授業等で、「教科書以外の英文を扱いたいが、どのテキストが学習者のレベルに合っているのかわからない」という悩みを持たれることがあるかもしれません。このような場合も、語彙テストの結果が役立ちます。これまでの研究では、既知語が95%~98%以上を占める文章であれば、内容理解が可能であることが示されています。例えば、学習者の語彙サイズが2000語である場合は、1000語・2000語レベルの語が95~98%以上を占めている英文テキストの使用が望ましいということです。学習者の語彙サイズは、Vocabulary Size Test(リソース①・②)や望月テスト(リソース③)を使用して測定することが出来ます。また、テキスト中にどのようなレベルの単語がどのくらいの割合で用いられているかを調べる際には、Range(リソース①)やVocabProfile(リソース②)等の語彙レベル分析ソフトが便利です。

テストは最強の語彙学習法!?

語彙テストを実施することには、もう1つの利点があります。それは、テストを受けることで、語彙習得が促進されるということです。ここで、Karpicke & Roediger (2008)によって行われた興味深い研究をご紹介します。彼らの研究では、アメリカ人大学生がスワヒリ語の単語40個をコンピュータ上で学習しました。彼らの研究の目的は、「学習」と「テスト」が第二言語語彙習得に与える影響を調査することでした。ここでいう「学習」とは、「chakula = food」のように、外国語(スワヒリ語)とその母語訳(英語)が提示され、それを覚えることを指します。一方の「テスト」では、「chakula = ???」のように外国語の単語が表され、その母語訳(ここではfood)を入力することが求められました。なお、テストの後には正解(フィードバック)は与えられませんでした。すなわち、chakulaという単語の意味が思い出せなかった場合、正解を確認することはできませんでした。

Karpicke & Roedigerは、学習とテストの回数を操作し、以下の4つの条件の効果を比較しました。

条件1:学習・テストともに約2回

条件2:学習が4回、テストが約2回

条件3:学習が約2回、テストが4回

条件4:学習・テストともに4回

1週間後にスワヒリ語を英語に訳すテストを行い、4つの条件の学習効果を測定しました。その結果、条件4は81%という非常に高い保持率に結びつきました。条件4は学習・テストともに4回と多かったので、この結果は納得できます。最も保持率が低かった(33%)のは、条件1でした。条件1は学習・テストともに約2回と少なかったので、この結果も納得できるものです。それでは、学習回数が多かった条件2と、テスト回数が多かった条件3とでは、どちらの方が効果的だったでしょうか? 意外なことに、保持率が高かったのは条件3の方でした。条件3における1週間後の保持率は81%で、条件4と遜色ありませんでした。一方で、条件2の保持率はわずか36%でした。

この研究から言えることをまとめると、以下のようになります。第1に、学習回数を2回から4回に増やしても、1週間後の保持率は有意には増えません(33⇒36%)。一方で、テストの回数を2回から4回に増やすと、1週間後の保持率は飛躍的に増えます(33⇒81%)。また、テストの回数が4回であれば、学習回数が2回であろうと、4回であろうと、保持率に有意な差はありません(ともに81%)。一言で言えば、語彙習得に影響を与えるのは、学習回数ではなく、テストの回数であるということです。すなわち、テスト自体に学習効果があるのです。これは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テストに学習効果があることを考えると、教室で語彙テストを行うのは、リサーチという観点からだけでなく、学習を促進するという点からも大いに有益であると言えます。

このように、テストは研究者・学習者の双方にとって有益なものですが、採点に手間がかかるという欠点があります。しかし、これまでの研究では、フィードバック(正解)を与えなかったとしても、テストは学習を促進することが示されています。ご紹介したKarpicke & Roedigerの研究でも、テストの後にフィードバックは与えられませんでしたが、それでも大きな学習効果が見られました。

テストを採点して返却する場合、「学習者が内容を忘れてしまってからでは意味がないので、なるべく早く採点を終え、返却しなくてはいけない」というプレッシャーを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、これまでの研究では、「テストの直後にフィードバックを与えても、時間をおいてからフィードバックを与えても、語彙習得に大きな差は見られない」という結果が得られています(Nakata, 2015b)。また、「時間をおいてからフィードバックを与えた方が、直後に与えるよりも記憶保持を促進する」という説もあります。テストを実施したからといって、すぐに採点・返却をしなくてはならないと過度に気負う必要はないと言えます。

今後求められる語彙習得研究

教室で語彙テストに関するリサーチを行う場合、どのようなテーマが考えられるでしょうか? 1つの研究テーマとして、語彙知識の深さを調査することが考えられます。多くの語彙テストでは、学習者が英単語と和訳を結びつけることが出来れば、その単語を「知っている」とみなします。しかし、「英単語を覚える」ということは、必ずしも「英単語の和訳を覚える」こととイコールではありません。語彙知識には、その単語の発音・品詞・語法・コロケーションに関する知識など、様々な側面が含まれます。これが、語彙知識の「深さ」と呼ばれる側面です。「日本人中学生・高校生がどのくらい深い語彙知識を持っており、それが長期的にどのように変化するか?」、「語彙知識の深さの中で、最も重要なのはどの側面か?」といったテーマは、非常に興味深いものです。また、語彙知識の深さに関するテストをすることで、「英単語を覚えることは、和訳を覚えることと必ずしもイコールではない」ということを学習者に認識させるという副次的な効果も期待できます。

また、テストがきわめて効果的な学習法であることを考えると、テスト効果に関するさらなる研究を行うことも有益でしょう。テスト効果に関するこれまでの研究の大半は、短期間の実験に基づいているため、テストが語彙習得に与える影響を長期的に調査する研究が求められます。また、「どのような形式のテストが最も効果的なのか?」、「語彙を定着させるには、どのようなスケジュールで何回テストすべきなのか?」、「テストを解いた後、どのようなフィードバックをどのタイミングで与えるべきなのか?」等、テスト効果を高めるためにはどうしたら良いかを調査することも有益であると考えられます。

ふだんの授業の中で、英単語テストを実施されている方は多いことでしょう。テストにひと工夫することで、学習効果をさらに高めたり、興味深いデータが得られるようになります。語彙テストを中心とした研究に、皆さんも挑戦されてみてはいかがでしょうか?

語彙習得研究に活用できるリソース

①Paul Nationのwebサイト:Vocabulary Levels Test等の語彙テストや、語彙レベル分析ソフトRangeが公開されています。

http://www.victoria.ac.nz/lals/about/staff/paul-nation

②Compleat Lexical Tutor:様々な語彙テストや、語彙指導を促進する有益なツール(例. オンライン・コーパス、語彙レベル分析ソフト等)が無料で利用できます。http://www.lextutor.ca/

③相澤一美・望月正道. (2010)「英語語彙指導の実践アイディア集」東京:大修館書店.単語テストの例が数多く紹介されています。「望月テスト」が収録されたCD-ROMも付属。

参考文献

Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968.

Nakata, T. (2015a). Effects of expanding and equal spacing on second language vocabulary learning: Does gradually increasing spacing increase vocabulary learning? Studies in Second Language Acquisition, 37, 677–711.

Nakata, T. (2015b). Effects of feedback timing on second language vocabulary learning: Does delaying feedback increase learning? Language Teaching Research, 19, 416–434.

Nakata, T., & Webb, S. (in press). Does studying vocabulary in smaller sets increase learning? The effects of part and whole learning on second language vocabulary acquisition. Studies in Second Language Acquisition.

Nation, I. S. P. (2013). Learning vocabulary in another language (2nd ed.). Cambridge, UK: Cambridge University Press.

初出:「英語教育 2016年6月号」(大修館書店)

Wiley発行の査読付き国際誌The Modern Language Journalに論文が掲載されました

Wiley発行の査読付き国際誌 The Modern Language Journal に以下の論文が掲載されました。

Suzuki, Y., Nakata, T., & DeKeyser, R. (2020). Empirical feasibility of the desirable difficulty framework: Toward more systematic research on L2 practice for broader pedagogical implications. The Modern Language Journal , 104, 313-319. doi:10.1111/modl.12625

この論文は、以下の論文へのresponse paperとなっています。

Rogers, J., & Leow, R. P. (2020). Toward greater empirical feasibility of the theoretical framework for systematic and deliberate L2 practice: Comments on Suzuki, Nakata, & Dekeyser (2019). The Modern Language Journal. 104.

この論文を執筆するに至った経緯に関しては、神奈川大学の鈴木祐一さんがJapan Second Language Acquisition Research Forum (JSLARF)のwebサイトで詳しく報告してくれています。詳細は以下をご覧ください。

Japan Second Language Acquisition Research Forum