Studies in Second Language Acquisition (Cambridge University Press) に共著論文が掲載されました

査読付き国際誌Studies in Second Language Acquisition(Cambridge University Press)に、鈴木祐一先生(神奈川大学)との共著論文が掲載されました。

Nakata, T., & Suzuki, Y. (2019). Effects of massing and spacing on the learning of semantically related and unrelated wordsStudies in Second Language Acquisition. 41, 287–311. doi:10.1017/S0272263118000219 [PDF]

研究の概要

外国語の単語を学ぶ上で、果物の名前(例. apple, banana, orange)、動物の名前(例. dog, cat, horse)、曜日の名前(例. Sunday, Monday, Tuesday)など、意味的に関連した単語を同時に学習することは一般的に行われていると考えられます。

意味的に関連した単語をまとめて学習することは、“semantic clustering”と呼ばれています。semantic clusteringは、日本に限らず、様々な国で広く行われている学習法であると指摘されています。

しかし、多くの研究者は、semantic clusteringは干渉(interference)を引き起こすため、語彙習得を阻害する有害な学習法であると警鐘を鳴らしています。例えば、right(右)とleft(左)という単語を同時に学習すると、それぞれが競合(干渉)し、どちらが「右」でどちらが「左」を意味するのか、混乱してしまうということです。

「semantic clusteringが学習を阻害する」という主張は、語彙習得に関する多くの専門書籍や学術論文において見られます。しかし、その主張の根拠として挙げられている研究を仔細に検討すると、「semantic clusteringが学習を阻害する」という主張は必ずしも妥当ではないように考えられます。

そこで、我々の研究では、semantic clusteringに関する今までの研究の限界をふまえた上で、semantic clusteringの効果を改めて調査しました。

また、「意味的に類似した単語を学習する上では、特に分散学習が効果的である」という主張を検証するため、集中学習(massed learning)と分散学習(spaced learning)が意味的に類似した単語の学習に与える効果も検証しました。

研究の結果

研究結果を要約すると、以下の通りです。

(a) これまで「semantic clusteringが学習を阻害する」と考えられてきたが、事後テスト得点において、そのような結果は得られなかった。

(b) しかし、意味的に関連がある単語の方が、そうでない単語よりも、より多くの干渉エラーに結びついた。すなわち、weasel(イタチ)という単語を和訳することが求められた時に、「イタチ」ではなく別の哺乳類の名前(アライグマやカワウソなど)を答えてしまうことが多かった。

(c) 意味的に類似した単語と類似していない単語のいずれにおいても、分散学習は集中学習よりも効果的だった。しかし、「意味的に類似した単語を学習する上では、特に分散学習が効果的である」という仮説とは反対に、分散学習は意味的に類似していない単語の学習に特に有効であった。

コメント

本論文は所定の費用を支払うことでopen accessとして無料で公開されています。「意味的に似た単語を一緒に学ぶのは良くない」というのは語彙習得研究者の間では長い間定説になっていましたが、その定説に疑問を投げかけたという点で、色々な方に読んでいただきたいと思い、open accessにしてもらいました。