記憶術:復習間隔を少しずつ大きくしていく学習法は長期的な記憶保持を促進するのか? Part 1

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新しい単語を覚えたとしても、時間とともにその記憶は減衰し、やがて忘却されてしまいます。したがって、記憶を定着させるためには、定期的な復習が欠かせません。それでは、どのようなスケジュールで復習するのが最も効果的なのでしょうか?

語彙の復習スケジュールに関しては、拡張分散学習(expanding spacing)と均等分散学習(equal spacing)という2つのスケジュールがよく知られています。拡張分散学習とは「1日後→1週間後→2週間後→4週間後」というように、回数を重ねるにつれて、復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュールのことです(expanding spacingは、expanding rehearsal, expanded rehearsal, expanded retrieval等と呼ばれることもあります)。一方で、均等分散学習とは、「2週間後→2週間後→2週間後」というように、ある学習項目を一定の間隔で繰り返すスケジュールのことです。

一般的には、拡張分散学習が最も効果的な復習スケジュールであると考えられています。市販の英単語学習ソフトでも、拡張分散学習を売り文句にしているものが数多く見られます(例えば、iKnow, AnkiWord Engine など)。webサイトでも、「復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュールが効果的である」と述べているものが多くあります(例えば、こちらなど)。

しかしながら、近年の研究では、「拡張分散学習は短期的な記憶保持を促進する可能性はあるものの、長期的な記憶保持は促進しない」という結果が得られています(e.g., Kang, Lindsey, Mozer, & Pashler, 2014; Karpicke & Roediger, 2007; Karpicke & Bauernschmidt, 2011; Nakata, 2015; Pyc & Rawson, 2007)。

理論的背景:復習間隔を少しずつ大きくしていく学習法が効果的だと考えられている理由

拡張分散学習の効果は必ずしも実証されていないものの、「復習間隔を少しずつ大きくしていく学習法は効果的である」という考えは、いまだに根強いようです。それでは、なぜ拡張分散学習は記憶保持を促進すると考えられているのでしょうか?

拡張分散学習が記憶保持を促進するという考えの理論的背景となっているのが、「想起練習効果」(the retrieval practice effect)と「想起努力仮説」(the retrieval effort hypothesis)という仮説です(Ellis, 1995; Karpicke & Bauernschmidt, 2011; Karpicke & Roediger, 2010; Logan & Balota, 2008; Storm, Bjork, & Storm, 2010)。「想起練習効果」とは、「記憶を正しく想起することで、長期的な記憶保持が促進される」というものです。

例えば、「appleの意味は何ですか?」ときかれたとします。この場合、正しい答え(りんご)を思い出せた方が、思い出せなかった場合よりも、appleという語に関する記憶が強固になるということです。これは、「思い出す」という行為を行うことで記憶へたどり着くための経路が強化され、記憶が取り出しやすくなるためであると考えられています。

2番目の「想起努力仮説」とは、「難しい状態で記憶を想起することで、長期的な記憶保持が促進される」というものです。例えば、appleという新出語を学んだばかりの学習者がいたとします。この学習者に、学習の直後に「appleの意味は何ですか?」と尋ねた場合と、学習の1週間後に同じ質問をした場合とでは、後者の方がより記憶保持を促進すると考えられています。これは、学習の1週間後にappleの記憶をテストされた方が、学習の直後にテストされるよりもより大きな心的努力を必要とし、この心的努力が記憶保持を促進すると考えられているためです。

「想起練習効果」と「想起努力仮説」は、それぞれ相反する内容です。なぜなら、想起努力仮説によれば、復習間隔は長ければ長いほど良いことになります。しかしながら、想起練習効果によると、復習間隔が長すぎるのは好ましくありません。想起練習効果によれば、英単語に関する記憶を正しく思い出した時に初めて記憶が強化されます。復習と復習の間隔が空きすぎてしまうと、その単語の記憶を正しく想起することが不可能になるため、あまりに復習間隔が長くなるのは逆効果です。

つまり、記憶が最も強化されるのは、想起練習効果と想起努力仮説に折り合いをつけ、記憶が忘却されるぎりぎりの時点で、その項目に関する記憶を想起した際であるということになります。例えば、30秒後にある単語に関する記憶が忘却されるのであれば、29秒後にその単語の記憶を思い出すのが、最も効果的な復習スケジュールであるということになります。

「想起練習効果」と「想起努力仮説」から、どのような結論が導き出せるでしょうか? 2つの仮説から言えることは、「新しい単語を学習した場合は、学習の直後に復習した方が良い」ということです。学習の直後に復習をしないと、記憶を正しく想起することができないため、「記憶を正しく想起することで、長期的な記憶保持が促進される」という想起練習効果に反してしまいます。

2回目の復習は、1回目の復習よりも長い間隔を空けることができます。これは、1回目の復習で語の記憶が強化されることで、記憶の減衰速度が緩やかになり、間隔を長くしても正しく想起されると考えられるからです。3回目の復習は、2回目の復習よりももっと長い間隔を空けることができます。これは、1回目と2回目の復習を行ったことで、復習間隔をさらに長くしても正しく想起されると考えられるからです。

同じようにして、復習回数が増えるごとに間隔を徐々に広くしていくことで、「記憶が忘却されるぎりぎりの時点で、その項目に関する記憶を想起する」ことが実現できる可能性が高くなります。ゆえに、拡張型のスケジュールが最も長期的な保持を可能にすると一般的には考えられているわけです。

拡張分散学習に関する記念碑的研究:Landauer & Bjork (1978)

「復習間隔を少しずつ大きくしていく学習法が効果的である」ことを示した研究として最も知られているのは、Landauer & Bjork (1978)によって行われた研究でしょう。例えば、彼らの研究は、‘influential paper’ (Roediger & Butler, 2011), ‘landmark paper’ (Roediger & Karpicke, 2010), ‘often-cited chapter’ (Balota et al., 2007)などと評されています。

引用の数も多く、Google Scholarによると、Landauer & Bjork (1978)は600を越える研究に引用されています(2016年8月現在。なお、2011年に調べた際には約350の研究に引用されていましたので、出版から40年近く経っても引き続き引用され続けていることがわかります)。

Landauer & Bjork (1978)は、拡張分散学習(復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュール)と均等分散学習(ある学習項目を一定の間隔で繰り返すスケジュール)を比較し、拡張分散学習の方が均等分散学習よりもより高い記憶保持に結びつくという結果を得ました。

第二言語語彙習得の分野でも、Landauer & Bjork (1978)の研究を引用して、「復習間隔を少しずつ大きくしていく学習法が語彙習得を促進する」と主張している研究者が多くいます。しかしながら、Landauer & Bjorkの研究結果を元に、「復習間隔を少しずつ大きくしていくことは語彙習得を促進する」と主張することには、慎重であるべきだと考えられます。それは、以下の5つの理由によります。

第1に、Landauer & Bjork (1978)は学習の直後に行ったテストのみで学習効果を測定しており、遅延テストは行っていません。すなわち、短期的な学習効果を測定しているものの、長期的な記憶保持は測定していない、ということです。

近年の研究では、「短期的に学習を促進する学習法が、長期的な記憶保持を促進するとは限らない」ということが示されています(e.g., Bjork, 1994, 1999; Karpicke & Bauernschmidt, 2011; Pashler, Zarow, & Triplett, 2003; Schmidt & Bjork, 1992; Schneider, Healy, & Bourne, 2002)。したがって、学習の直後に行ったテストで拡張分散学習の方がより高い記憶保持に結びついたとしても、それが長期的な記憶保持を促進することを必ずしも意味しません。

第2に、研究で使用した項目数が極端に少ないという方法論上の問題もあります。Landauer & Bjork (1978)は拡張分散学習条件と均等分散学習条件の効果を比較しましたが、それぞれの条件につき、1つあるいは2つの項目しか使用していません。どのくらいの項目数が必要であるかは意見が分かれるところですが、トップ・ジャーナルと呼ばれるような国際的な学術誌では、1つの条件につき少なくとも8~10項目以上を使用した研究でなければ出版することは困難でしょう。

一方で、Landauer & Bjork (1978)は1つの条件につき1~2の項目しか使用していません。したがって、彼らの研究結果が十分に妥当なものであるかどうかは、意見が分かれるところです。

第3に、Landauer & Bjork (1978)の研究では、想起練習の後にフィードバックが与えられていません。フィードバックとは、想起練習の後に提示される正解のことです。

例えば、「appleとはどういう意味ですか?」と尋ねられ、その正解(りんご)が学習者に提示された場合、フィードバックがあります。一方で,正解が学習者に提示されない場合、フィードバックはありません。

想起練習の後にフィードバックが与えられない状況というのは、外国語学習ではあまり一般的ではありません。例えば、「この単語の意味を以下の選択肢から選んでください」という問題を出しておきながら、その答えを教えてくれないような不親切な英単語学習ソフトは、あまり見たことがありません(2011年に出版したこの論文では外国語の単語学習ソフトについて調査しましたが、想起練習の後にフィードバックが表示されないソフトは1つもありませんでした)。また、単語帳や単語カードで学習をする際も、単語の意味が正しく思い出せなければ、答えを確認することが一般的でしょう。

想起練習の後にフィードバックが提供されなかったという点で、Landauer & Bjork (1978)の研究は一般的な単語学習の状況とはかけ離れていると言えます。したがって、彼らの研究結果を外国語の語彙学習にあてはめることには、慎重になるべきだと考えられます。

第4に、Landauer & Bjork (1978)では拡張分散学習の方が均等分散学習よりも高い記憶保持に結びつくという結果が得られましたが、その差はわずかなものでした。学習の直後に行われたテストでは、拡張分散学習の正答率が45%であったのに対して、均等分散学習の正答率は40%で、その差は5%に過ぎませんでした。

拡張分散学習と均等分散学習の差は統計的に有意なものでしたが、これは被験者の数が多かったこと(それぞれの条件につき468人)によるものだと考えられます(サンプル・サイズが大きいと、わずかな差であっても統計的に有意という結果が得られます)。

Landauer & Bjork (1978)は効果量(effect sizes)を報告していませんが、計算してみるとr = .21で、これは小さい効果(small effect)と見なされる範囲です(統計的有意差とは異なり、効果量はサンプル・サイズの影響を受けません)。すなわち、Landauer & Bjorkは拡張分散学習と均等分散学習の間に差があったことを示しましたが、その差が実質的に意味があるとは必ずしも言い切れないと考えられます。

最後に、これはLandauer & Bjork自体の問題ではありませんが、彼らの研究は外国語の単語学習を調査してはいません。Landauer & Bjorkが研究で使用したのは、人名でした。

彼らは2つの実験を行っていますが、実験1では苗字と名前の組み合わせ(例. Robert Bjork)を覚えるように指示されました。そして、名前が提示されて(例. Robert _____ )、それに対応する苗字(例. Bjork)を答えるように指示されました。実験2では、人の顔を見て、その人の名前を答えるように指示されました。

人名を覚えることと、外国語の単語を覚えることには共通点もありますが、違いもあるため、Landauer & Bjork (1978)の結果をそのまま外国語の単語学習に応用して良いか、疑問が残ります。

このように、「復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュールが効果的である」ということの根拠として語彙習得研究者にも引用されることが多いLandauer & Bjork (1978)ですが、詳細を検討してみると、外国語の語彙学習にあてはめることには慎重になるべきだと考えられます。

また、拡張分散学習の効果を示している研究として、他にもRea & Modigliani (1985)、Siegel & Misselt (1984)の研究が引用されることがあります。しかしながら、これらの研究は、拡張分散学習と集中学習(massed learning)の効果のみしか比較していない、ということに注意すべきです。

集中学習とは、間隔を置かずにある学習項目を複数回繰り返すことを指します。拡張分散学習が集中学習よりも高い保持率に結びついたからといって、「復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュールが効果的である」とは必ずしも言い切れません。なぜなら、拡張分散学習が集中学習よりも高い保持率に結びついたとしても、その原因が、「復習間隔を少しずつ大きくしていったから」なのか、あるいは、単に「復習と復習の間に間隔が空いていたから」なのか、はっきりしないからです。

拡張分散学習が効果的な復習スケジュールであることを調査するためには、他の種類の分散学習スケジュール(例. 均等分散学習など)と比較して、拡張分散学習がより効果的であることを示す必要があります。

まとめ

今回は、1970年代~1980年代に行われた研究を元に、「復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュールは、語彙習得に効果的である」と主張することは妥当でない可能性がある、ということを述べてきました。拡張分散学習の効果に関しては、1990年以降にも数多くの研究が行われています。近年の研究では、Landauer & Bjork (1978)とは反対に、「拡張分散学習は長期的な記憶保持を必ずしも促進しない」という結果が得られています。

次回は、1990年以降に行われた近年の研究を元に、「復習間隔を少しずつ大きくしていくスケジュールは効果的なのか?」、「もし効果的でないとしたら、それはなぜなのか?」という点について引き続き検討したいと思います。

参考文献

Bjork, R. A. (1994). Memory and metamemory considerations in the training of human beings. In J. Metcalfe & A. Shimamura (Eds.), Metacognition: Knowing about knowing (pp. 185–205). Cambridge, MA: MIT Press.

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注)本稿は、以下の論文をwebサイト向けに再編集したものです。
復習間隔を少しずつ広げていくことは長期的な記憶保持を促進するか? 先行研究の批判的検証 (pdf)

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