「TOEFL・TOEICと日本人の英語力」

資格主義から実力主義へ

 英語検定試験について、考えるところは多々あったし、不正確かつ見当違いの情報がまかり通っていることを腹立たしく思っていたが、本を書く気はなかった。

 ところがある日、講談社の編集者から長い手紙が来た。
英語の資格試験についての本が巷にあふれていて、受験しなければいけないような不安に襲われるが、一体どの試験を受けたらよいのか、そもそも受けたほうがよいのかどうかも、わからない。調べてみたけれど、そういう根本的な疑問に答えてくれる本はないようだ。書いてもらえないでしょうか、という趣旨だった。

 どうせ受験対策本を書いて欲しい、というのだろう。お断りしよう、というつもりだったが、手紙の熱意におされて、ともかくお会いした。すると、若い編集者は、大きな紙袋いっぱいの何冊もの「資格試験対策本」をかかえて現れた。それを見ながら、私は思わず、普段の持論をまくしたてた。すると、その編集者は、ひどく嬉しそうに、それをそのまま本に書いていただけませんか?、と言うのだ。

 ちょうどその頃、親しい友人達の集まりで、TOEFLのことが話題になった。日本人のスコアが世界最低なんだって?と誰もが言うようなせりふが登場し、思わず私は、TOEFLについての解説を述べたてた。すると、ビジネスマンである友人が、そういうこと、ちゃんとどこかで発表すべきじゃないのかなあ、ふつうの人は知らないもの、と言うのだ。

 これが、この本が誕生したいきさつである。


(著)鳥飼玖美子 「TOEFL・TOEICと日本人の英語力 資格主義から実力主義へ "あとがき" より

管理人の中田が製作に協力いたしました、「TOEFL・TOEICと日本人の英語力」(右写真)が2002年4月に発売されました。

鳥飼先生の許可を得て、このページでは「TOEFL・TOEICと日本人の英語力」の概要をご紹介します。本書籍は、その名の通り、TOEIC・TOEFL等の英語検定試験を切り口に、「今必要な英語力」や「日本人と英語」を論じている本です。

英語検定試験については、「不正確かつ見当違いの情報がまかり通っている」とおっしゃる鳥飼先生のことだけあり、本書では英語の資格試験に関する多くの誤解や過度の憧れを冷静に指摘されています。

例えば、「日本人のTOEFLのスコアが低いのは、コミュニケーション力の養成を標榜する英語教育を受けている若年層が足を引っ張っているからだ」・「大学入試にTOEFLを導入せよ、と声高に主張する人がいるが、TOEFLは実は現行の大学入試以上に高度な文法・読解力を測る試験である」などの指摘は非常に独創的で、多くの示唆に富むものです。


日本人のTOEFLスコアはなぜ低いのか?

中でも読み応えがあるのは、97年度の日本人のTOEFLスコア平均が498点であり、アジア25か国中で最下位だった、という事実に関する先生の分析です。この手のニュースはメディアでも非常にセンセーショナルに取り上げられ、「日本人の英語下手」を論じる際によく引き合いに出されます。英語教育の専門家でさえ、日本人のTOEFL平均がアジアで最下位であったことを、短絡的に「日本人の英語下手」に結びつける人は多いようです。

鳥飼先生は、日本のスコアの推移を中国・韓国のそれと比較しながら、それらの数字が意味するところを慎重に分析してゆきます。その結果、鳥飼先生が辿り着かれた意外な結論は……!?。

同様の試みは、私がAll About Japanのクローズアップ記事として書かせて頂いた、「TOEFLスコアアジア最下位の衝撃!―それでも『日本人は英語が出来る』これだけの理由」でもなされています。しかし、鳥飼先生の分析は私の記事のそれより遥かに緻密かつ正確で、まさに圧巻という感じです(私の記事はこちらにて無料で公開しています)


中田の登場は?

サブ・タイトルに「資格主義から実力主義へ」とあるように、鳥飼先生は英語の資格試験を過信しすぎる現状に批判的です。

「試験マニア、資格オタクは別として、むやみにあれもこれも受けて一喜一憂することはない」

「熱中するあまり、試験それ自体が目的化してしまうのでは、あまりにも貧しくないか。数字は単なる一つの指標であり、それ自体で一個人の資質が測れるものではない」

「スコアを上げるために勉強するとなると、それは本末転倒である」


などと、むやみに資格試験を受けまくる風潮を批判されています。見事にそのような風潮に踊らされた私にとっては、少々耳の痛いフレーズの数々ですが……。

肝心の私がどのような文脈で本書に登場するのか、ということですが、幸いなことに「意味もないのに資格試験を受けまくる試験オタク」として反面教師的に取り上げられているわけではありません(ホッ)

実は最後から2番目の、「本物の実力を目指して」という章で登場します。この章はその名の通り、資格試験対策に終始しない、本当に役に立つ英語力はどのようにすれば身につけられるのか、ということを先生が論じていらっしゃる章です。

「IT時代にはこれまで以上に英語を書くことが求められるが、真に役に立つライティング力はどのようにすれば習得できるのだろうか……」、という文脈の中で、突然「中田君のライティング学習法」という小見出しが登場し、私の執筆した実践的なライティング力習得のためのアドヴァイスが掲載されています。

書籍中の「中田君のライティング学習法」は、「英語を学ぶすべての人へ」の「TOEFLライティング」のコーナーを一部編集の上、転載したものです。


本当に必要な資格試験はどれ?

また、冒頭に掲載させて頂いた「あとがき」にある通り、鳥飼先生は「英語の資格試験対策本が世に溢れており、受験しなければいけないような不安に襲われるが、その試験を受けたらいいのかわからない」と言うある編集者の言葉に触発されて、本書を書くことを思い立たれたそうです。

「TOEICで○○点とらないと出世も出来ない!!」などとむやみに英語資格取得を奨励するような風潮が世の中にはありますが、もしかしたらそれは、あなたのお財布の紐をゆるめようと企てる英語学習産業のプロパガンダかもしれません。(この件に関しては、「TOEICだって万能じゃない」「英語が国際語であるという幻想」などもご覧下さい)

鳥飼先生の書籍の「『資格試験』は万能か?」という章では、英検・TOEIC・TOEFLをはじめとする、日本で行われている英語検定試験それぞれの特徴と受けることのメリットがまとまっています。この章をうまく活用して、自分の将来にとって本当に必要な英語資格を冷静に見極めて下さい。日本社会に蔓延する英語学習熱・英語資格奨励熱に踊らされる程、損なことはありません。

最後に、鳥飼先生の御著の「本物の実力を目指して」という章から、先生の以下のようなメッセージを引用いたします。

 英語学習に関する言説にはなぜか、「英語をモノにする」というような猛々しい比喩、あるいは「英語道」だの「英語道場」だのと称する比喩が多いのだが、この傾向は資格試験対策となると一層強まる。ためしに、いわゆる対策本を見てみると、その比喩表現に圧倒される。

 「獲得」「挑戦」「4つに戦う」「全体から攻める」などは穏やかな方で、「格闘」「気合を入れる」「初試合」「初戦」「限界に挑戦」「機関銃のように速い」「絶体絶命」「戦力」「攻略」「征服」「必勝」「戦術」「戦略」「楽勝」「戦闘意欲」「体当たり」「一本勝負」「作戦の勝利」「最善の戦い」「武器としての英語」などの勇ましい表現が並ぶ。

 「鉄人」が「英語資格試験は格闘技」と喝破し、「気合を入れる」ために「坊主頭」になったりもする。「敗戦」という結果もあるが、「リベンジ」し、「勝利の星をつかむ」ためには「相手を知ることが必要」で、何冊もの過去問題集をあたり、「練習試合」をする。(略)それでも「満点を取る」「1番になる」という「目標が達成できない」のは「修行がたりない」からで、「参戦」することをを周囲にも知らせて「自分を追い込み」「必死になって」練習を続け、「英語資格試験に勝つこと」を目標に「リング」で「制覇を目指し」て「戦いを続け」、「最後の試合日」についに目標のTOEIC満点を達成する。(略)

 しかし、「鉄人」たるもの、そんなことでは満足しない。「今回の敵は弱すぎた」と分析し、「試合には勝ったものの、相手がこれほど弱くては不満足」なので、次なる目標であるTOEFL満点に向けて、新たな闘いが始まる。

 ここまで真剣勝負で挑まれるとTOEFL、TOEICも本望かもしれないが、
それにしても、外国語学習というのはこんなに大変な「闘い」なのだろうか。

(著)鳥飼玖美子 「TOEFL・TOEICと日本人の英語力 資格主義から実力主義へ P.154-5 より

最近の英語学習書の中には、英語が出来ることへの憧れや、出来ないことへのコンプレックスにつけ込み、いたずらに読者の不安をあおるものが多いのが事実です。しかし、「TOEFL・TOEICと日本人の英語力」の場合、鳥飼先生は冷静な分析に基づき、「本当に英語は必要なのか?」・「本当に必要な資格試験は何か?」という根本的な疑問に答えて下さいます。

そんな通り一遍の「資格試験対策本」とは違う、全ての英語学習者へのあたたかいメッセージがこめられたこの書籍を、皆さんにも是非手にとって頂きたいと思います。全国の書店では、2002年4月20日(土)より発売になりました(新書コーナーにあることが多いようです)。

↓ また、Web上でも、スカイソフト・アマゾンをはじめ、多くのオンライン書店でお買い求めになれます。

<目次> 「TOEFL・TOEICと日本人の英語力」
序章
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
終章
日本人の自虐的英語観と奇跡願望
英語試験の誤解と勘違い
三大検定試験の中身はこうなっている
検定試験は何を判定しているか
日本人のTOEFLスコアはなぜ低いのか?
「資格試験」は万能か?
本物の実力を目指して
資格主義から実力主義へ

TOEFL・TOEICと日本人の英語力 資格主義から実力主義へ

 
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(著) 鳥飼 玖美子 (講談社)
165ページ  660円 
2002年4月20日第1刷発行
ISBN: 4061496050 ; サイズ(cm): 18

鳥飼玖美子(とりかい くみこ)教授…… 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。コロンビア大学大学院にて、英語教授法修士課程修了。現在、立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科委員長。上智大学外国語学部に在籍中から同時通訳者として活躍され、アポロ月面着陸や大阪万博など数々の国際舞台で活躍された「同時通訳のパイオニア」として知られる。文化放送「100万人の英語」や、NHKテレビ英会話「クロスロードカフェ」、毎日新聞「新聞時評」をはじめ、マス・メディアでの活躍も著しい。著書には、歴史をかえた誤訳(新潮社)・ことばが招く国際摩擦(ジャパンタイムズ)・「プロ英語」入門―通訳者が実践している英語練習法(講談社)・小学校でなぜ英語?(岩波書店)・異文化をこえる英語(丸善)・大学英語教育の改革(三修社)など多数。日本ユネスコ国内委員会委員・日本通訳学会副会長なども歴任。


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