【10月3日- 10月4日 オンライン開催】ESRC-JSLARF Symposium on Second Language Acquisition

国内外の第一線でご活躍の第二言語習得関連の研究者を招待し、国際シンポジウムを開催します。Japan Second Language Acquisition Research Forum (JSLARF)とESRC(Link)の共催です。

様々な理論的・実証的アプローチから、第二言語習得研究の最前線についての2日間の講演に加えて、博士課程在籍中の院生のショットガン発表大会および大学院生および若手研究者向けのラウンドテーブルも行います。

  • 開催日時:2020年10月3日(土)10:00 – 16:20 および 10月4日(日)9:00 – 14:35
  • 会場:ウェブ会議システムZOOM上で実施 (参加登録をされた方には、前日にURL及びパスワードをお送りします)
  • 参加費:無料
  • 使用言語:英語
  • 参加申し込み・プログラム詳細:シンポジウムのウェブサイトのLink をご覧ください。

登壇予定者

October 3rd (Sat)

  1. Yuko Goto Butler (The University of Pennsylvania): Digital gaming and young L2 learning
  2. Shuhei Kadota (Kwansei Gakuin University): Exploring the input effect of shadowing training in L2 acquisition
  3. Yuichi Suzuki (Kanagawa University) & Hyenjeong Jeong (Tohoku University): The neural foundations of explicit and implicit knowledge
  4. Nobuhiro Kamiya(Gunma Prefectural Women’s University): What do mismatching gestures teach us?
  5. Kyoko Motobayashi (Ochanomizu University): Mobility, identity, and the social turn in applied linguistics
  6. Miyuki Sasaki (Waseda University): Investigating L2 writing development: What lies ahead and beyond
  7. Natsuko Shintani (Kansai University): Comparing task-based language teaching and traditional instruction

October 4th (Sun)

Round Table: Getting published in peer-reviewed international SLA journals: Tips for graduate students and early career researchers

  1. Junya Fukuta (Chuo University): Getting published in international journals in PhD Program in Japan
  2. Aki Tsunemoto (Concordia University): Getting published in international journals in PhD Program in North America
  3. Shungo Suzuki (Lancaster University): What I wish I knew when I started my PhD in the UK

Talks

  1. Takumi Uchihara (University of Western Ontario): To what extent does mode of input affect the learning of pronunciation of second language words?
  2. Ryo Nitta (Rikkyo University): Understanding learner agency from a complex dynamic systems perspective
  3. Wataru Suzuki (Miyagi University of Education): Languaging: Theory, research, and pedagogy
  4. Kazuya Saito (UCL) & Adam Tinery (Birkbeck): Having a good ear as a foundation of second language acquisition

本シンポジウムは、英国・日本の2国間グラントの支援を受けています [Link])。

ご多忙の時期とは存じますが、多くの方にご参加いただければ幸いです。

実行委員:鈴木祐一(神奈川大学)、中田達也(立教大学)、内原卓海(ウェスタンオンタリオ大学)

「語彙プロファイラー」で学習すべき英単語を見つける方法:Compleat Lexical Tutorの使い方

「語彙プロファイラー」で学習すべき英単語を見つける方法:Compleat Lexical Tutorの使い方

英単語を学ぶ上では、重要な単語を、様々な活動でバランスよく学習することが欠かせません。それでは、どのようにすれば「重要な単語」を特定できるのでしょうか?

ある単語が重要であるかどうかを判断する際に役立つ基準の1つとして、その単語の出現頻 (frequency) 挙げられます。わかりやすくいえば、会話や書籍で頻繁に使用される単語は、たまにしか出てこないマイナーな単語よりも優先して学ぶに値する、ということです。

単語の出現頻度に関して重要なことは、ごく少数の単語があらゆるテキストの大部分を占め、それ以外の大多数の単語は、ほとんどまれにしか出現しないということです。これは「Zipfの法則」と呼ばれます(Zipfの法則に関しては、こちらのYouTubeビデオの解説がわかりやすく、お勧めです)。

重要な英単語とそうでない英単語

英語では頻度に応じて、単語を以下の3つのグループに分類することが一般的で (Nation, 2013)。

単語グループ 頻度レベル 語数 カバー率
(1)    高頻度語(high-frequency words) 1000語~3000語 3000語 約94~95%
(2)    中頻度語(mid-frequency words) 4000語~9000語 6000語 約3~4%
(3)    低頻度語(low-frequency words) 10000語以上 多数 約2%

上表の「カバー率」とは、ある単語がテキスト全体の何%を占めているか(カバーしているか)を指します。例えば、英語で最も頻繁に使われる単語は定冠詞the ですが、the だけであらゆるテキストの約7%を占めると言われています(つまり、英語で文章を読むと、100語に7回の割合でtheが出てくる、ということです)。この場合、the のカバー率は7%となります。ちなみに、一般的な英語の書籍では、1ページに含まれる単語は約300語程度だと言われています。the のカバー率が7%だと考えると、1ページ中に21回もtheという単語が登場する計算になります。

英単語の3つのグループについて見てみましょう。1つ目のグループである高頻度語は、英語で最も頻度が高い3000語から構成されます。このグループに属する3000語だけで、一般的な英文テキストの約94~95%をカバーします。1語を学ぶごとにカバー率を大きく増やすことができるので、非常にコスト・パフォーマンス(費用対効果)が高い単語と言えます。英語を学習する上では、まずこの高頻度語をどのような手段(単語カードや単語帳など)を使ってでも良いので覚えましょう。

2つ目のグループである中頻度語は6000語から構成され、一般的な英文テキストの約3~4%を占めます。高頻度語と比べると1語あたりのカバー率はだいぶ下がりますが、会話・映画・小説・新聞を理解するには、6000~9000語程度を知っている必要があるという研究があります(Nation, 2006)。英語の上級者になるためには、高頻度語3000に加えて、中頻度語6000もぜひおさえておきたいところです。

3つ目のグループは、低頻度語と呼ばれます。高頻度語・中頻度語以外の単語は、すべて低頻度語に分類されます。低頻度語は数多くありますが、一般的な英文テキストにおけるカバー率はすべて合わせても2%程度にしかなりません。そのため、学習すべき優先順位は低くなります。高頻度語と中頻度語を完全にマスターしたという学習者でない限り、低頻度語をあえて学習する必要はないでしょう。

英単語を学ぶ上で重要なことは、ごく少数の単語(高頻度語)があらゆるテキストの大部分を占め、それ以外の大多数の単語(中頻度語や低頻度語)は、ほとんどまれにしか出現しないということです。例えるなら、英単語はごく少数の働き者と、その他大勢の怠け者から成り立っている、ということです。

注)「最も頻度が高い単語3000語で、あらゆるテキストの約94~95%をカバーする」といった場合の「1語」とは、「ワードファミリー」(word families) 呼ばれるものです。ワードファミリーでは、ある英単語の活用形や派生形も含めて、「1語」と数えます。例えば、includeのワードファミリーには、その活用形であるincludes, included, includingや、派生形であるinclusive, inclusionが含まれます。

語彙プロファイラーで英単語の頻度を調べる

せっかく英単語を学習するのであれば、めったに出会わない怠け者の単語ではなく、頻繁に出会う働き者の単語を学ぶようにしたいものです。働き者の単語と怠け者の単語を見分けるためには、「語彙プロファイラー」というツールが有益です。

語彙プロファイラーには様々なものがありますが、本稿ではVocabProfilerをご紹介します。VocabProfilerはケベック大学モントリオール校のTom Cobb教授が開発したもので、https://www.lextutor.ca/vp/comp/から無料で使用できます。

VocabProfilerの使い方

VocabProfilerで語彙レベルを調べるためには、画面中央のボックスに、分析したい英文テキストを貼り付けます。ここでは、例としてNew York Timesの“Republicans Grind Impeachment Inquiry to Halt as Evidence Mounts Against Trump”という記事 (2019年10月23日) を貼り付けます。

*画面中央のボックス(上の写真で青く囲った部分です)に、分析したい英語の文章を貼り付けます。

テキストを貼り付けた後は、画面右上にある“FRAMEWORKS”というボックスの中から、分析に使用する語彙リストを選択します。通常は一番上にある「BNC-COCA 1-25k」を選択することをお勧めします。

その後、画面右下にある黄色い [SUBMIT_window] ボタンをクリックします。すると、以下のように分析結果が表示されます。

分析結果の上の方にある表をご覧ください。この表の「Tokens (%)」は、それぞれの頻度レベルの単語が文中の何%を占めて(=カバーして)いるかを表します。例えば、「K-1」という行の「Tokens (%)」には「78.7%」とあります。これは、1000語レベルの単語(K-1)がこの文章全体の78.7%を占めているという意味です(1kや2kの“k”とはkilo、すなわち1000という意味です)。つまり、この英文記事中で用いられている単語の約8割は、英語で最も頻度が高い1000語が占めている、ということです。

次に、「K-2」という行の「Tokens (%)」には「7.0」とあります。これは、2000語レベルの単語(K-2)がこの文章全体の7.0%を占めているという意味です。

次に、同じ表の一番右にある「Cumul. token(%)」の行をご覧ください。この列は、「累積カバー率」(cumulative coverage) 表します。例えば、「K-1」という行の「Cumul. token (%)」には「78.7%」とあります。これは、1000語レベルまでの単語(K-1)がこの文章全体の78.7%を占めているという意味です。

その下の「K-2」という行の「Cumul. token (%)」には「85.7%」とあります。これは、2000 (k-2) ベルまでの全ての単語、すなわち、1000語レベルと2000レベルの単語を合計すると、英文中の85.7% (= 78.7% + 7.0%) 単語をカバーできる、という意味です。つまり、この英文記事で用いられている単語の85.7%は、英語で最も頻度が高い2000語から構成されている、ということです。

この表はさらに、「Coverage 95」と「Coverage 98」という2つの線で区切られています。

「Coverage 95」とは、「英文中で用いられている95%の単語をカバーするのに必要な語彙レベル」を表します。この表では、5000語レベル(k-5)の下に「Coverage 95」という区切りが入っています。つまり、この英文記事で用いられている単語の95%をカバーする上では、少なくとも5000語を知っている必要がある、ということを意味します。念のため5000語レベル(k-5)の「Cumul. token (%)」を見てみると「95.6%」となっており、英語で最も頻度が高い5000語を知っていれば、この英文記事の95%以上をカバーできる、ということが確認できました。

ちなみに、標準的なテキストであれば、3000語レベルまでの単語(高頻度語)で94〜95%の単語はカバーできることが知られています。5000語を知らないと95%のカバー率に達しないという点で、このNew York Timesの記事は比較的難易度が高いと言えます。

「Coverage 98」とは、「英文中で用いられている98%の単語をカバーするのに必要な語彙レベル」を表します。この表では、8000語レベル(k-8)の下に「Coverage 98」という区切りが入っています。つまり、この英文記事で用いられている98%の単語をカバーする上では、少なくとも8000語を知っている必要がある、ということを意味します。8000語レベル(k-8)の「Cumul. token (%)」を見てみると「98.1%」となっており、英語で最も頻度が高い8000語を知っていれば、この英文記事の98%以上をカバーできる、ということが確認できました。

95%・98%のカバー率がなぜ重要なのか?

ところで、なぜ英文中で用いられている95%(あるいは98%)の単語をカバーするのに必要な語彙レベルを知る必要があるのでしょうか? それは、「学習者が辞書などを使わずに自力で文章を理解するためには、文中の95〜98%以上の単語を知っている必要がある」という研究結果があるからです。すなわち、100語から構成されるテキストを自力で読んで理解するためには、その内の95〜98語以上が既知であることが望ましいということです。

VocabProfilerによる分析結果をふまえると、今回分析したNew York Timesの記事を自力で理解するためには、5000〜8000語レベルの語彙力が必要であると推定されます。

なお、どのくらいの英単語を知っているかを調べる際には、以下のwebサイトに掲載されているVocab Levels Test, Vocab Size Test, Updated Vocab Levels Test等のテストが活用できます。

https://www.lextutor.ca/tests/

難しい単語を特定する

分析結果の画面で一番下までスクロールすると、「Families List」と書かれたセクションがあります。ここでは、英文テキストに登場した単語が頻度レベルごとに提示されています。例えば、このセクションで1kに分類されている単語は、「最も頻度が高い単語1000」を示します。下の画面では、青字で表示されている単語がこれに該当します (a, about, across, Adam, afterなど)。

次に、2kに分類されている単語は、2000語レベルの単語を示します。上の画面では、緑色で表示されている単語がこれに該当します (accuse, aid, assist, damage, denyなど)。

各単語の後の[ ]は、その単語がテキスト中に登場した回数を指します。例えば、a_[16]は、“a”という単語が全部で16回登場したことを表します。

ここで、冒頭に示した英単語の分類に戻りましょう。英語では頻度に応じて、単語を「高頻度語」(1000語〜3000語レベル)、「中頻度語」(4000語〜9000語レベル)、「低頻度語」(10000語レベル)という3つのグループに分類することが一般的でした。

今回分析で用いたNew York Timesの記事では、中頻度語(4000語~9000語レベル)に該当するのは以下の単語です。

語彙レベル 英単語
4000語レベル chaos, ms, obstacle, senator, sergeant, suite, testimony
5000語レベル chant, enlist, smear, sow, withhold
6000語レベル deflect, deposition, hush, impeach, juror, notwithstanding
7000語レベル defiance, transparency
8000語レベル onslaught, quid, unearth
9000語レベル incriminate, subpoena

また、低頻度語(10000語レベル以上)に該当するのは以下の単語です。

語彙レベル 英単語
10000語レベル 該当なし
11000語レベル quo
12000語レベル standoff
13000〜17000語レベル 該当なし
18000語レベル ultraconservative

VocabProfiler以外の語彙プロファイラーも使ってみよう

今回ご紹介したVocabProfiler以外にも、語彙プロファイラーは多くあります。例えば、関西大学の水本篤教授が開発したNew Word Level Checker (https://nwlc.pythonanywhere.com) は、(1) New JACET 8000、(2) SVL 12000、(3) The New General Service List (NGSL)、(4) CEFR-J Wordlistという4つの語彙リストに基づいて、英単語の語彙レベルを調べることが出来ます。

New JACET 8000では、母語話者の使用頻度だけでなく、日本国内で使用されている英語教科書や入試問題などにおける出現頻度に基づき、語彙レベルを補正しています。そのため、日本における英語学習者にとっての難易度を推定したい際には、母語話者の使用頻度のみを元にした語彙リストよりも、New JACET 8000の方が適している場合もあります。

母語話者の使用頻度を知りたい場合はVocabProfilerでBNC-COCA等のリストを使い、日本における英語学習者にとっての難易度を推定したい際にはNew Word Level CheckerのNew JACET 8000を使うなど、目的に応じて使い分けると良いでしょう。

ある英文テキストの難易度を調べたり、テキスト中の重要な単語を特定する上では、語彙プロファイラーは非常に有益です。本記事の内容を参考に、語彙プロファイラーで様々なテキストを分析されてみてはいかがでしょうか?

ちなみに本記事でご紹介したVocabProfilerは、Compleat Lexical Tutor (https://www.lextutor.ca/) というwebサイトの機能の1つです。Compleat Lexical Tutorは機能が豊富で非常に素晴らしいwebサイトなのですが、多機能であるゆえに使用方法が若干わかりにくく、さらに90年代を彷彿させるデザインであるため(ずっと見ていると目がチカチカします)、とっつきにくい印象があります。本記事をきっかけに、英語学習者や英語教師にとって、Compleat Lexical Tutorがより身近なツールとなることを願っております。

なお、VocabProfilerについては、拙著『英単語学習の科学』(研究社)の2章でもご紹介していますので、そちらも合わせてご覧ください。

文責:
中田達也(立教大学異文化コミュニケーション学部准教授)
江口政貴(オレゴン大学言語学部博士課程在籍)
柳沢明文(ウェスタンオンタリオ大学教育学部博士課程在籍)

参考文献

Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? Canadian Modern Language Review, 63, 59–82.

Nation, I. S. P. (2013). Learning vocabulary in another language (2nd ed.). Cambridge, UK: Cambridge University Press.

【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

私が執筆した以下の論文が、TESOL Quarterly (Wiley-Blackwell)に掲載されました。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(研究の背景)

中学校や高校の英語授業で、単語に関する小テストは一般的に行われていることと思います。私も中学生や高校生の頃に英語の授業で単語帳が配布され、毎回決められた範囲に関する小テストが行われていたことを覚えています。

「テスト自体に学習効果がある」という研究結果を考慮すると、単語テストの学習効果をいかにして高めることが出来るかは、重要な研究課題であると考えられます。

* なお、テスト自体に学習効果があるというのは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テスト効果に関しては、以下の記事をご覧ください。

【研究結果】本当に何かを習得したいなら、学習ではなく〇〇が効果的

先日出版された私たちの研究では、英語語彙学習における非累積テスト(non-cumulative test)と累積テスト(cumulative test)の効果を比較しました。

ここで言う「非累積テスト」とは、それぞれの出題範囲に重なりがないテストを指します。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半で学習した内容が出題される時、中間テストと期末テストの出題範囲には重複がありません。よって、これらのテストは非累積テストです。

一方、「累積テスト」では、その名の通り出題範囲が累積的に増えていきます。例えば、「中間テスト」では学期の前半で学習した内容が出題され、「期末テスト」では学期の後半だけでなく前半でも学習した内容が出題される時、このテストは累積テストと呼ばれます。

数学や心理学の分野においては、累積テストの方が非累積テストよりも学習を促進することが示されています (Beagley & Capaldi, 2016; Khanna, Brack, & Finken, 2013; Lawrence, 2013; Mayfield & Chase, 2002)。しかしながら、外国語学習においても累積テストが記憶保持を促進するかどうかは、これまでの研究では明らかになっていません。

(研究の概要と結果)

上で述べたような背景をふまえ、我々の研究では英語語彙学習における累積テストと非累積テストの効果を比較しました。

参加者は薬学を専攻している日本の大学生72名でした。参加者は非累積グループと累積グループとに割り当てられました。いずれのグループでも、参加者は8週間にわたって80の医学用語を学習しました。授業は1週間に1回行われ、毎週10の英単語が導入されました。翌週の授業では、学習した単語に関する小テストが行われました。

非累積グループでは、前の週で導入された10単語が次週の小テストで出題されました。一方、累積グループでは、前の週で導入された単語だけでなく、それ以前の授業で導入された単語も出題範囲として指定されていました。

以下に非累積グループと累積グループのイメージを示します。

図1. 非累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語11~20」、小テスト3では「単語21~30」が出題範囲。それぞれの出題範囲に重なりがない。
図2. 累積グループのイメージ。小テスト1では「単語1~10」、小テスト2では「単語1~20」、小テスト3では「単語1~30」が出題範囲。回数を重ねるにつれて、出題範囲が累積的に増えていく。

注)累積グループ・非累積グループともに、毎週の小テストでは10問ずつ出題され、問題数に違いはありませんでした。唯一の違いは、出題範囲が異なっていたということでした。

最後の小テストの3週間後に事後テストを行い、学習効果を測定しました。その結果、累積グループの得点が非累積グループの得点を大きく上回っていました。両グループの差は非常に大きく、累積テストは非累積テストよりも3.4倍も効果的でした(日英翻訳テストで学習効果を測定した場合)。この結果は、累積テストは非累積テストと比較して語彙習得を大きく促進する可能性を示唆しています。

本研究で興味深かったのは、毎週の小テストでは非累積グループの方が累積グループよりも高い得点をとっていたにもかかわらず、学期末の事後テストでは結果が逆転し、累積グループの方が高い得点につながった、ということです。

この結果は、「短期的に学習を促進する学習法が、長期的な記憶保持を促進するとは限らない」ということを示唆しています。言い換えれば、「短期的に学習を阻害する(ように見える)学習法が、長期的な記憶保持を促進することもある」と言うことです(これは、“desirable difficulties”と呼ばれる現象です)。


図3. 累積グループと非累積グループの小テストおよび事後テスト得点。小テスト得点に関しては、非累積グループ(赤い線)が累積グループ(黒い線)を常に上回っていた。一方、事後テスト得点(グラフの一番右)に関しては両者が逆転し、累積グループ(黒い線)が非累積グループ(赤い線)よりも3倍以上高い得点に結びついた。

また、本研究の非累積グループでは80単語全てが小テストで1回ずつ出題されましたが、累積グループでは8回の小テストで全く出題されない単語が23個ありました。

しかしながら、累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)を有意に上回っていました。言い換えれば、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に思わせるだけで良く、実際には出題しなくても十分な学習効果が期待できる、ということです。

ただし、それと同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)を有意に上回っていました。この結果は、「小テストに出題されるかもしれない」と学習者に期待させるだけで学習効果があるものの、実際に小テストに出題された単語の方が、そうでない単語よりも記憶保持が促進されるということを示唆しています。

すなわち、「この単語は重要なのでどうしても覚えて欲しい」という単語に関しては、小テストの出題範囲に入れるだけでなく、実際に小テストで出題した方が良い、ということです。


図4. 累積グループで小テストに出題されなかった単語の事後テスト得点 (40%)は、非累積グループで小テストに出題された単語の得点(25%)より高かった。同時に、累積グループで小テストに出題された単語の事後テスト得点 (56%)は、累積グループで小テストに出題されなかった単語の得点(40%)よりも高かった。
注)非累積グループではすべての単語が小テストに出題されたため、「非累積グループで小テストに出題されなかった」という組み合わせは存在しない。

毎週の英単語テストにひと手間加える(出題範囲を累積させる)だけで単語学習が大きく促進されるというのは、非常に有益な研究結果であると考えられます。次回単語テストをする際には、新出語だけでなく、以前のテストでカバーされた単語も出題範囲に入れてみてはいかがでしょうか?

「なぜ累積テストは非累積テストよりも学習を促進するのか?」という理論的な側面に関心がある方は、以下の拙論をご参照ください。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (2020). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly. doi:10.1002/tesq.596

(参考文献)

Beagley, J. E., & Capaldi, M. (2016). The effect of cumulative tests on the final exam. Problems, Resources & Issues in Mathematics Undergraduate Studies, 26, 878–888. doi:10.1080/10511970.2016.1194343

Khanna, M. M., Brack, A. S. B., & Finken, L. L. (2013). Short- and long-term effects of cumulative finals on student learning. Teaching of Psychology, 40, 175–182. doi:10.1177/0098628313487458

Lawrence, N. K. (2013). Cumulative exams in the introductory psychology course. Teaching of Psychology, 40, 15–19. doi:10.1177/0098628312465858

Mayfield, K. H., & Chase, P. N. (2002). The effects of cumulative practice on mathematics problem solving. Journal of Applied Behavior Analysis, 35, 105–123. doi:10.1901/jaba.2002.35-105

 

TESOL Quarterly (Wiley) に論文が採択されました

Wiley発行の査読付き国際誌TESOL Quarterlyに論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T., Tada, S., McLean, S., & Kim, Y. A. (in press). Effects of distributed retrieval practice over a semester: Cumulative tests as a way to facilitate second language vocabulary learning. TESOL Quarterly.

Abstract:
Research suggests that testing (or retrieval) has the potential to enhance second language (L2) vocabulary learning. Given the positive effects of testing, how L2 vocabulary learning from tests can be optimized is an important question. One way to increase the benefits of testing may be to use cumulative tests, where not only recently studied but also previously studied materials are tested. This study compared the effects of cumulative and non-cumulative quizzes on L2 vocabulary learning. Seventy-two Japanese university students were randomly assigned to the cumulative or non-cumulative group and studied 80 low frequency English vocabulary items over nine weekly classes. In both groups, participants were introduced to 10 target items in each class and completed a vocabulary quiz in the following class. In the noncumulative group, the 10 items introduced in the previous class appeared in vocabulary quizzes in the following class. In the cumulative group, not only target items introduced in the previous class but also items introduced in earlier classes were tested. Posttest results demonstrated that the cumulative tests may be twice (receptive) or three times (productive) more effective than non-cumulative tests. The findings suggest that vocabulary learning can be improved significantly by making simple changes to vocabulary quizzes.

この研究の概要を解説したブログ記事を書きました。以下をご覧ください。

【研究結果】単語テストを累積的にするだけで英単語学習が3倍以上促進される

Second Language Research (Sage) に論文が採択されました

査読付き国際誌Second Language Research (Sage)に論文が採択されました。詳細は以下の通りです。

Nakata, T. & Elgort, I. (in press). Effects of spacing on contextual vocabulary learning: Spacing facilitates the acquisition of explicit, but not tacit, vocabulary knowledge. Second Language Research.

紙媒体での出版は2021年になるようですが、オンラインで先行公開される予定です。

立教大学異文化コミュニケーション学部・異文化コミュニケーション研究科に移籍しました

2020年4月から立教大学異文化コミュニケーション学部異文化コミュニケーション研究科に移籍しました。

担当科目は以下の通りです。

* 学部
(春学期)

College Life Planning
英語コミュニケーション教育学
Overview of Language and Communication Studies(オムニバス科目)
言語コミュニケーション研究入門(オムニバス科目)
海外留学研修

(秋学期)
Introduction to the Study of English(英語学概論)
Theories of Second Language Acquisition(第2言語習得理論)
英語科教育研究
専門演習
言語コミュニケーション研究入門(オムニバス科目)
海外留学研修

* 大学院
(春学期)

言語コミュニケーション研究基礎論
言語教育研究特殊講義A
研究指導演習
研究指導

(秋学期)
Teaching Practicum
研究指導演習
研究指導

2020年3月まで勤務した法政大学文学部英文学科には、2020年度も引き続き兼任講師として出講いたします。

今年度もどうぞよろしくお願いいたします。

Routledge発行の書籍”Routledge Handbook of Vocabulary Studies”に論文が掲載されました

Routledge発行の書籍”Routledge Handbook of Vocabulary Studies”に論文が掲載されました。

書籍の詳細は以下の通りです。


書名:Routledge Handbook of Vocabulary Studies

編集:Stuart Webb

出版社:Routledge

目次と執筆者:

1 Introduction
Stuart Webb

Part I UNDERSTANDING VOCABULARY

2 The different aspects of vocabulary knowledge
Paul Nation

3 Classifying and identifying formulaic language
David Wood

4 An overview of conceptual models and thories of lexical representation in the mental lexicon
Brigitta Dóczi

5 The relationship between vocabulary knowledge and language proficiency
David D. Qian and Linda Lin

6 Frequency as a guide for vocabulary usefulness: High-, mid- and low-frequency words
Laura Vilkaitė-Lozdienė and Norbert Schmitt

7 Academic vocabulary
Averil Coxhead

8 Technical vocabulary
Dilin Liu and Lei Lei

9 Factors affecting the learning of single word items
Elke Peters

10 Factors affecting the learning of multiword items
Frank Boers

11 Learning single words vs. multiword items
Ana Pellicer-Sánchez

12 Processing single- and multi-word items
Kathy Conklin

13 L1 and L2 vocabulary size and growth
Imma Miralpeix

14 How does vocabulary fit into theories of second language learning?
Judit Kormos

Part Ⅱ APPROACHES TO TEACHING AND LEARNING VOCABULARY

15 Incidental vocabulary learning
Stuart Webb

16 Intentional L2 vocabulary learning
Seth Lindstromberg

17 Approaches to learning vocabulary inside the classroom
Jonathan Newton

18 Strategies for learning vocabulary
Peter Yongqi Gu

19 Corpus-based wordlists in second language vocabulary research, learning, and teaching
Thi Ngoc Yen Dang

20 Learning words with flashcards and wordcards
Tatsuya Nakata

21 Resources for learning single-word items
Oliver Ballance and Tom Cobb

22 Resources for learning multi-word items
Fanny Meunier

23 Evaluating exercises for learning vocabulary
Batia Laufer
Part III MEASURING KNOWLEDGE OF VOCABULARY

24 Measuring depth of vocabulary knowledge
Akifumi Yanagisawa and Stuart Webb

25 Measuring knowledge of multiword items
Henrik Gyllstad

26 Measuring vocabulary learning progress
Benjamin Kremmel

27 Measuring the ability to learn words
Yosuke Sasao

28 Sensitive measures of vocabulary knowledge and processing: Expanding Nation’s framework
Aline Godfroid

29 Measuring lexical richness
Kristopher Kyle

Part IV KEY ISSUES IN TEACHING, RESEARCHING, AND MEASURING VOCABULARY

30 Key issues in teaching single word items
Joe Barcroft

31 Key issues in teaching multiword items
Brent Wolter

32 Single, but not unrelated: Key issues in teaching single word items
Tessa Spätgens and Rob Schoonen

33 Key issues in researching multiword items
Anna Siyanova-Chanturia and Taha Omidian

34 Key issues in measuring vocabulary knowledge
John Read

35 Resources for researching vocabulary
Laurence Anthony


私は第20章の“Learning words with flashcards and wordcards”を担当し、単語カードを使った語彙学習について論じました。

今のところハードカバー版のみしか出版されていません。価格はハードカバー版が
24,000円以上(Amazon調べ)と少々お高いですが、その内廉価版のソフトカバー版が出版されずはずです。

語彙習得研究の知見を元に日々の語彙テストを最大限に活用する

以前、雑誌「英語教育」(大修館書店)に記事を執筆しました。
その記事の内容をこちらに再掲します。

 


語彙習得研究の知見を元に日々の語彙テストを最大限に活用する

近年、第二言語語彙習得に関する多くの研究が行われています。Nation (2013)は、「語彙習得研究の約30%が過去11年間に行われたものだ」と述べており、語彙習得研究が近年大きな注目を集めていることがうかがえます。

語彙習得研究は、大きく2つに分けることができます。1つは、どのような要因が語彙習得に影響を与えるかを調査する研究です。例えば、「どのような復習スケジュールが語彙保持に最も効果的か?」(e.g., Nakata, 2015a; Nakata & Webb, in press)といった問いは、このような研究で扱われます。もう1つは、語彙テストに関する研究です。例えば、「日本人の高校生はどのくらいの英単語を知っているか?」といった課題を調査するのが、語彙テストに関する研究の具体例です。

前者のような研究は英語教員にとって非常に有益なものです。どのような要因が語彙習得に影響を与えるかを知っていれば、語彙習得の効果を最大限に高めた授業実践をすることができるからです。一方で、実際に研究を行うとなると、限られた授業時間の中で様々な要因を統制し、厳密な実験を行うのはなかなかハードルが高いものです。また、学習者を対象とした実験を行うことに関して、倫理的な抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。一方で、語彙テストを使用する研究であれば、授業の一環として日々の活動にスムーズに組み入れやすいと考えられます。そこで本記事では、主に語彙テストに関する研究を取り上げ、それらを日々の実践に生かす方法について考えたみたいと思います。

なぜ語彙テストをするのか?

語彙テストは教室でどのように活用できるでしょうか? 1つの用途として、学習者が重要な高頻度語(high frequency words)を知っているかどうかを確認することが挙げられます。英語における高頻度語とは、最も頻繁に使われる2,000語を指します。なぜ、英語では高頻度語を覚えることが重要なのでしょうか? それは、「Zipfの法則」によります。Zipfの法則とは、ごく少数の単語があらゆるテキストの大部分を占め、それ以外の大多数の単語は、ほとんどまれにしか出現しないという現象のことです。例えば、英語においては、最も頻度が高い2,000語がBritish National Corpus全体の86.0%を占めますが、それ以外の18,000語は12.8%のみにしかならないことが示されています(Nation, 2013)。英語学習においては、まずこの高頻度語2000を知ることが欠かせません。学習者が高頻度語を知っているかどうかは、Vocabulary Levels Testというテストで測定することができます(リソース①・②)。また、「望月テスト」(リソース③)という日本人学習者用に開発されたテストを使うこともできます。

語彙テストはさらに、学習者のレベルにあったテキストを選ぶ際にも活用することができます。リーディングの授業等で、「教科書以外の英文を扱いたいが、どのテキストが学習者のレベルに合っているのかわからない」という悩みを持たれることがあるかもしれません。このような場合も、語彙テストの結果が役立ちます。これまでの研究では、既知語が95%~98%以上を占める文章であれば、内容理解が可能であることが示されています。例えば、学習者の語彙サイズが2000語である場合は、1000語・2000語レベルの語が95~98%以上を占めている英文テキストの使用が望ましいということです。学習者の語彙サイズは、Vocabulary Size Test(リソース①・②)や望月テスト(リソース③)を使用して測定することが出来ます。また、テキスト中にどのようなレベルの単語がどのくらいの割合で用いられているかを調べる際には、Range(リソース①)やVocabProfile(リソース②)等の語彙レベル分析ソフトが便利です。

テストは最強の語彙学習法!?

語彙テストを実施することには、もう1つの利点があります。それは、テストを受けることで、語彙習得が促進されるということです。ここで、Karpicke & Roediger (2008)によって行われた興味深い研究をご紹介します。彼らの研究では、アメリカ人大学生がスワヒリ語の単語40個をコンピュータ上で学習しました。彼らの研究の目的は、「学習」と「テスト」が第二言語語彙習得に与える影響を調査することでした。ここでいう「学習」とは、「chakula = food」のように、外国語(スワヒリ語)とその母語訳(英語)が提示され、それを覚えることを指します。一方の「テスト」では、「chakula = ???」のように外国語の単語が表され、その母語訳(ここではfood)を入力することが求められました。なお、テストの後には正解(フィードバック)は与えられませんでした。すなわち、chakulaという単語の意味が思い出せなかった場合、正解を確認することはできませんでした。

Karpicke & Roedigerは、学習とテストの回数を操作し、以下の4つの条件の効果を比較しました。

条件1:学習・テストともに約2回

条件2:学習が4回、テストが約2回

条件3:学習が約2回、テストが4回

条件4:学習・テストともに4回

1週間後にスワヒリ語を英語に訳すテストを行い、4つの条件の学習効果を測定しました。その結果、条件4は81%という非常に高い保持率に結びつきました。条件4は学習・テストともに4回と多かったので、この結果は納得できます。最も保持率が低かった(33%)のは、条件1でした。条件1は学習・テストともに約2回と少なかったので、この結果も納得できるものです。それでは、学習回数が多かった条件2と、テスト回数が多かった条件3とでは、どちらの方が効果的だったでしょうか? 意外なことに、保持率が高かったのは条件3の方でした。条件3における1週間後の保持率は81%で、条件4と遜色ありませんでした。一方で、条件2の保持率はわずか36%でした。

この研究から言えることをまとめると、以下のようになります。第1に、学習回数を2回から4回に増やしても、1週間後の保持率は有意には増えません(33⇒36%)。一方で、テストの回数を2回から4回に増やすと、1週間後の保持率は飛躍的に増えます(33⇒81%)。また、テストの回数が4回であれば、学習回数が2回であろうと、4回であろうと、保持率に有意な差はありません(ともに81%)。一言で言えば、語彙習得に影響を与えるのは、学習回数ではなく、テストの回数であるということです。すなわち、テスト自体に学習効果があるのです。これは「テスト効果」(testing effect)と呼ばれる現象です。テストに学習効果があることを考えると、教室で語彙テストを行うのは、リサーチという観点からだけでなく、学習を促進するという点からも大いに有益であると言えます。

このように、テストは研究者・学習者の双方にとって有益なものですが、採点に手間がかかるという欠点があります。しかし、これまでの研究では、フィードバック(正解)を与えなかったとしても、テストは学習を促進することが示されています。ご紹介したKarpicke & Roedigerの研究でも、テストの後にフィードバックは与えられませんでしたが、それでも大きな学習効果が見られました。

テストを採点して返却する場合、「学習者が内容を忘れてしまってからでは意味がないので、なるべく早く採点を終え、返却しなくてはいけない」というプレッシャーを感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、これまでの研究では、「テストの直後にフィードバックを与えても、時間をおいてからフィードバックを与えても、語彙習得に大きな差は見られない」という結果が得られています(Nakata, 2015b)。また、「時間をおいてからフィードバックを与えた方が、直後に与えるよりも記憶保持を促進する」という説もあります。テストを実施したからといって、すぐに採点・返却をしなくてはならないと過度に気負う必要はないと言えます。

今後求められる語彙習得研究

教室で語彙テストに関するリサーチを行う場合、どのようなテーマが考えられるでしょうか? 1つの研究テーマとして、語彙知識の深さを調査することが考えられます。多くの語彙テストでは、学習者が英単語と和訳を結びつけることが出来れば、その単語を「知っている」とみなします。しかし、「英単語を覚える」ということは、必ずしも「英単語の和訳を覚える」こととイコールではありません。語彙知識には、その単語の発音・品詞・語法・コロケーションに関する知識など、様々な側面が含まれます。これが、語彙知識の「深さ」と呼ばれる側面です。「日本人中学生・高校生がどのくらい深い語彙知識を持っており、それが長期的にどのように変化するか?」、「語彙知識の深さの中で、最も重要なのはどの側面か?」といったテーマは、非常に興味深いものです。また、語彙知識の深さに関するテストをすることで、「英単語を覚えることは、和訳を覚えることと必ずしもイコールではない」ということを学習者に認識させるという副次的な効果も期待できます。

また、テストがきわめて効果的な学習法であることを考えると、テスト効果に関するさらなる研究を行うことも有益でしょう。テスト効果に関するこれまでの研究の大半は、短期間の実験に基づいているため、テストが語彙習得に与える影響を長期的に調査する研究が求められます。また、「どのような形式のテストが最も効果的なのか?」、「語彙を定着させるには、どのようなスケジュールで何回テストすべきなのか?」、「テストを解いた後、どのようなフィードバックをどのタイミングで与えるべきなのか?」等、テスト効果を高めるためにはどうしたら良いかを調査することも有益であると考えられます。

ふだんの授業の中で、英単語テストを実施されている方は多いことでしょう。テストにひと工夫することで、学習効果をさらに高めたり、興味深いデータが得られるようになります。語彙テストを中心とした研究に、皆さんも挑戦されてみてはいかがでしょうか?

語彙習得研究に活用できるリソース

①Paul Nationのwebサイト:Vocabulary Levels Test等の語彙テストや、語彙レベル分析ソフトRangeが公開されています。

http://www.victoria.ac.nz/lals/about/staff/paul-nation

②Compleat Lexical Tutor:様々な語彙テストや、語彙指導を促進する有益なツール(例. オンライン・コーパス、語彙レベル分析ソフト等)が無料で利用できます。http://www.lextutor.ca/

③相澤一美・望月正道. (2010)「英語語彙指導の実践アイディア集」東京:大修館書店.単語テストの例が数多く紹介されています。「望月テスト」が収録されたCD-ROMも付属。

参考文献

Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319, 966–968.

Nakata, T. (2015a). Effects of expanding and equal spacing on second language vocabulary learning: Does gradually increasing spacing increase vocabulary learning? Studies in Second Language Acquisition, 37, 677–711.

Nakata, T. (2015b). Effects of feedback timing on second language vocabulary learning: Does delaying feedback increase learning? Language Teaching Research, 19, 416–434.

Nakata, T., & Webb, S. (in press). Does studying vocabulary in smaller sets increase learning? The effects of part and whole learning on second language vocabulary acquisition. Studies in Second Language Acquisition.

Nation, I. S. P. (2013). Learning vocabulary in another language (2nd ed.). Cambridge, UK: Cambridge University Press.

初出:「英語教育 2016年6月号」(大修館書店)

Wiley発行の査読付き国際誌The Modern Language Journalに論文が掲載されました

Wiley発行の査読付き国際誌 The Modern Language Journal に以下の論文が掲載されました。

Suzuki, Y., Nakata, T., & DeKeyser, R. (2020). Empirical feasibility of the desirable difficulty framework: Toward more systematic research on L2 practice for broader pedagogical implications. The Modern Language Journal , 104, 313-319. doi:10.1111/modl.12625

この論文は、以下の論文へのresponse paperとなっています。

Rogers, J., & Leow, R. P. (2020). Toward greater empirical feasibility of the theoretical framework for systematic and deliberate L2 practice: Comments on Suzuki, Nakata, & Dekeyser (2019). The Modern Language Journal. 104.

この論文を執筆するに至った経緯に関しては、神奈川大学の鈴木祐一さんがJapan Second Language Acquisition Research Forum (JSLARF)のwebサイトで詳しく報告してくれています。詳細は以下をご覧ください。

Japan Second Language Acquisition Research Forum